長谷川香料株式会社

3つの研究所を統合し、機能とコミュニケーションを向上させたい。

長谷川香料株式会社

お困りごと

日本橋と川崎に分散している3つの研究所を一ヶ所に集約し、社員同士のコミュニケーションを活性化し、調香や調合という研究の要を司る研究員の作業環境を向上させたい。
また、技術をアピールする広告塔としての役割を果たす施設にしたい。

成功事例

日本の香料産業の創成期である明治36年に創業された長谷川香料株式会社様の総合研究所新棟が2009年10月に完成しました。

地下1階、地上6階建ての総合研究所新棟には、フレーバー研究所(食品に使う香料)、フレグランス研究所(化粧品、芳香剤など食品以外に使う香料)と技術研究所(香りの分析などの基礎研究)を集約しました。長谷川香料様が設計コンセプトとして挙げられていた「コミュニケーション」「プレゼンテーション」「安全と環境と調和」の3つのコンセプトを具現化でき、高い評価をいただきました。

長谷川香料株式会社様 総合研究所新棟

ソリューション

今回のプロジェクトでは3つのコンセプトに基づき、目に見えない「香り」を制御しつつコミュニケーションを誘発する施設づくりを実現しました。

コミュニケーション

部門を越えた社員同士のコミュニケーションを活性化し、新しい発想を喚起するための機能の構築。

  • 2階から5階の各階の中心にコミュニケーションスペースを配置し研究居室とは違う、自然光の入る空間でリフレッシュもできミーテイングも行える、コミュニケーションの核となる空間を構築。お茶を飲みながら立ち話のできるカウンターなど様々な打ち合わせ形態に対応できる家具を配置。
  • 2階のコミュニケーションスペースの天井部分から6階までを吹き抜けにし、ガラス貼りのアトリウムを構成。アトリウムを介して各階のコミュニケーションスペースの様子も見え、偶発的な出会いを演出。

プレゼンテーション

建物自体を広告塔として、社外の方々へ「長谷川香料」とその「技術」をアピールする機能を構築。

  • 来訪者の方々の印象に残るような、ダイナミックなエントランスホールを設計。中央部が吹き抜けになっており、開放的な空間を演出。
  • 調香室や分析室は研究員の集中を妨げることなくお客様が見学できるよう、廊下に面する内壁に透明のガラス窓を設置。
  • 香料による食品の美味しさの違いを、お客様に体感していただくために6階のプレゼンルームには調理スペースを用意。プレゼンルームから屋外テラスへの出入りが可能で、風を感じながら食べるシチュエーションも経験でき、お客様とのコミュニケーションも密に。

安全と環境と調和

安全を確保し、周辺環境と研究員の作業環境に配慮。

安全

  • 免震システムを採用
    積層ゴム支承とオイルダンパーを併用した免震構造を採用。免震により調香瓶など繊細な器材が倒れないように配慮。

周辺環境への配慮

  • 非常用消火用水を確保
    敷地内に消火水槽と採水口を設置し、万が一、近隣周辺で火災が起きた場合の消火活動に利用可能な体制を整備。
  • 非常用飲料水を確保
    大規模震災時でも機能維持が可能なため、総合研究所新棟の地下に約50m3(15L/人×1000人×3日間)の飲料水を蓄えられる受水槽を設置。
  • 敷地周辺の緑化計画
    ビオトープや植栽エリアを確保し、近隣の方々にも憩いを感じてもらえる景観を構築。

作業環境への配慮

  • 加圧ゾーンシステムを各階に設置
    共用廊下の他の階とつながるエレベータや階段の前にエアロックを設置し、加圧により気流を制御することで、各階で発生する匂いをその階に封じ込め、各階の匂いが混交することを防止。
  • 卓上排気システムを新開発
    各研究室内での匂いの混交を防止するため、排気設備を備えた調香台「卓上排気システム」を新たに開発。天井から流れる空調の気流を制御できるため、各調香台を仕切りで囲うことなく、発生する匂いを発散させない仕組みを構築。(特許申請済)
卓上排気システム
卓上排気システム

特殊な構造体によるメリット

構造体を工夫することで周辺住宅地に対する建物の圧迫感を緩和。室内に柱を出さないようにするなどフレキシビリテイを持たせ、研究員の使いやすさを実現。

フレキシブルな構造体を実現

  • 柱と梁で構成された2つの構造体を緊結して1つの構造体を構成するデユアルフレーム構造を採用。これにより柱や梁の中央に開口部をつくることや多数の配管を通すことを可能にし、さらに柱や梁を通常よりも平らな形状にして壁や床に近づけることで室内に柱型や梁型を出さない実験機器のレイアウトがし易い居室空間を確保。

設備配管を外壁内部に集約

  • 屋上に脱臭処理システムなどの設備機器を設置し、屋上と各階の設備機器を結ぶ設備配管をすべて外壁に集約配置できるメカニカルウォールを実現。メンテナンスや設備機器の更新工事の際に作業員が研究居室へ入室することを回避。
メカニカルウォール
メカニカルウォールは外壁のデザインにもなっています
メカニカルウォールは外壁のデザインにもなっています

大成建設担当者より

大成建設 本社営業本部 統括営業部長 吉成 泰

大成建設 本社営業本部 統括営業部長 吉成 泰

香料会社様と研究施設の仕事をさせていただくことは、大成建設にとって初めての試みでした。初めて「香り」を扱うという独特な世界に触れ、苦労もありましたが、長谷川香料様のプロジェクトチームの皆様のご協力により、おかげ様で高機能な総合研究所を実現することができました。

今回のプロジェクトを通して、全く未知であった新しい分野を勉強することができました。
この貴重な経験を長谷川香料様の更なるお役立ちに繋がる様、努めてまいりたいと考えております。

大成建設 本社設計本部 グループリーダー 杉江 大典

大成建設 本社設計本部 グループリーダー 杉江 大典

今回のプロジェクトでは「香り」という目に見えないものを建築でどう表現するかが一番の課題であり、建物全体を通して「香り」を表現するよう努めました。例えばエントランスホールの壁面にはパール塗装を施し、光の反射や色の移り込みにより微妙に趣きが変化する効果によって、香りのイメージの可視化を試みました。

また、建物にフレキシビリテイを持たせるために採用したメカニカルウォールのように建築・設備・構造・意匠が一体となった技術提案は、設備機能やデザイン性能の両方を兼ね備えることで2乗、3乗にメリットを生み出すことに成功しました。常々意識しているこの理想を今回のプロジェクトでは形にすることができました。

大成建設 本社エンジニアリング本部 グループリーダー 浅尾 敏隆

大成建設 本社エンジニアリング本部 グループリーダー 浅尾 敏隆

私はエンジニアリング担当として、主に実験設備の計画、施工に携わりました。調香台で発生する匂いのコンタミネーションを防止することを目的とした「卓上排気システム」の開発には約1年かかりました。

当社技術センターにて実物大の模型をつくり、長谷川香料様の研究員の方々に実際の研究作業のデモを行っていただき検証を繰り返しました。匂いに対する概念を持っていない我々では気付くことのできない点をご指摘いただき、「香り」を専門とする特殊な世界のシビアさには驚きの連続でした。
良いものを開発したいという共通の思いのもと、双方のコミュニケーションが良く取れていたため、お互いの突き詰めていく姿勢と本音の対話が新しいシステムの開発を成功へと導いたのだと思います。

関連情報

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