「組踊(くみおどり)」を
ご覧になったことがありますか?

沖縄伝統芸能の保存振興を図る
2006年10月下旬、修学旅行生に混じって那覇空港に降り立ちました。色鮮やかな蘭の花に迎えられ一気に南国気分が高まります。
那覇空港から約30分、沖縄の強い日差しを跳ね返すような印象的な外観が迎えてくれました。
「国立劇場おきなわ」は国が援助をしている劇場としては6つ目の施設となります。国の重要無形文化財「組踊(くみおどり)」をはじめとする琉球舞踊や琉球音楽等の沖縄伝統芸能の保存振興を図ることを目的として、2004年1月に開場しました。
「国立劇場おきなわ」を「地図に残る仕事」に仕上げた禰占 忠生(ねじめ ただお)所長に施設内をご案内していただきました。

(ねじめ ただお)

─遠くから見て印象的な外観ですが、近くで見るとまた違った迫力を感じますね。
外観は、琉球王朝時代の家屋や祭祀建築(神あしゃぎ)に見られる形態をモチーフにしています。「雨端(あまはじ)」と呼ばれる風を通す軒下空間や日差しを和らげる網代状に竹を編みこんだ「チニブ」という沖縄らしい建築イメージを取り込み表現しています。

またこの外壁はご覧のようにオーバーハングしており3次元曲面となっています。従来の工法では連続する型を寸法精度よく造るのは困難でしたが、今回はプレキャストコンクリート工法により実現することを可能としました。
見ていただくとわかりますが表面に凹凸があり脱型するのが難しかったのを思い出します。

している外観

見らえるチニブ

─型どりしてできているのですね、どのように連続した壁面としたのか、もう少し詳しく教えて下さい。
部材は、長さ12m、幅1.9m、重さは最大のもので31トンあります。
- 1現場内で一部材づつ作り壁版を慎重にクレーンで吊り上げ
- 2壁板の足元はピン支持、上部は3階梁部で特殊鋼棒で面外方向へ支持
- 3PC鋼線を格子状に配置・緊張し、壁の連続性を確保し
- 4部材単体全てが圧着され外壁全体が面として外力に抵抗することを可能としました
外壁はカーテンウォールすなわち垂れ幕的な扱いをしており、一辺約80Mの壁面の四方に建てこんでいきました。

─この凹凸のある複雑な曲面を持つ部材を現場で造られたのですか?
はい。本格的に製造する6ヶ月前に、実物大模型(モックアップ)を製作し形状、型枠構造の検討、寸法精度の確認、建て方の問題点などをチェックしました。
不安定な形状の部材であるため外部からの運搬は困難な為、現場内での製造としました。
- 1製作精度を均一にするため15m×23m半径16mのかまぼこ状にわんきょくした鋼製ロングベッドを製作し
- 21部材の製作工程は2日とし順次型枠にコンクリートを打設
- 317時間おきに脱型し
- 4仮置きヤードへ移動しました



─アクセントになっているこの白い部分の素材は何ですか?
琉球石灰岩です。外壁のアクセントと外構の床材、そして劇場内のエントランスロビーの床などで使用しています。やはりできるだけ地元の材料を使用し沖縄らしさをだしています。

ひさし部分の屋根仕上げと外構の回廊の屋根には琉球瓦を使用しています。首里城再建で瓦を担当した奥原製陶に依頼し伝統的な手法を持い工場で製作されました。

1719年、「玉城朝薫(たまぐすくちょうくん)」により組踊は創作されました。題材やテーマは琉球の古い言い伝えや歴史に因んだものであり、科白を主として歌と踊りで筋を運ぶ琉球ならではの舞台芸術です。
琉球王朝時代には、首里城の「御庭(うなー)」に3間四方のオープンステージを仮設して演じられていたそうです。
外観を見た後、劇場内へご案内いただきました。
─明るいエントランスですね。
吹き抜けになっているので採光性のある明るいエントランスを実現できました。
天井部分はアルミパネルによって軽快なイメージを演出しながら、床材には琉球石灰岩を使用し沖縄らしさを醸しだしています。違う素材を上手く利用し、この空間もご好評いただいているようです。
この劇場の大劇場は一般的なプロセニアムステージと舞台が客席に張り出す組踊り形式のオープンステージの両機能を備えた可変式舞台と回り舞台の設備を持っています。
また沖縄の劇場でははじめて本格的な花道が設置されているのも目玉となっています。

【大劇場】
プロセニアム形式 632席/オープン形式 578席/花道形式 579席
【小劇場】 251席

─劇場の壁面は、木格子なのですね、これはデザインですか?
この壁面木格子は、デザインとしての効果を出しているだけではなく、音響上の装置としての機能が隠されているのです。
組踊の上演の際に地声が気持ちよく客席に届くように配慮し、原寸のモックアップを製作し当社技術センターにて共鳴・残響の音響実験を行いました。
格子の形状、ピッチ等のディテールを決定し、残響時間は大劇場で1.13秒、小劇場で0.86秒という時間を実現でき満足できる結果となりました。

─今回のプロジェクトを通したご感想をお願いします。
沖縄の大動脈である国道58号線の標識に掲げられて、「地図に残る仕事」として実感出来た思いで深い建物です。
当初設計図を見た時には、すごい外観だなと言う印象でした。
劇場特有の段差が多く、鉄筋コンクリート造とプレキャストコンクリートとプレストレストが混在した複雑な構造を、スマートに施工する為に、所員皆が智恵を絞った事。沖縄の強い日差しの中、作業員の皆さんが一所懸命作業を行う姿等、今でもホールで観劇する時に脳裏に浮かんで来ます。
─本日はありがとうございました。
隅々まで見せていただきましたが、稽古場 研究関係の施設も充実しており、沖縄の文化と伝統を大切にしながらモダンさを持ち合わせた劇場でした。
この劇場は沖縄伝統芸能の保存振興を図るとともに、沖縄の地理的歴史的な特性を活かし伝統文化を通じたアジア太平洋地域の交流の拠点となっていくものと期待されています。
工事概要
発注者 | 内閣府沖縄総合事務局開発建設局 |
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所在地 | 沖縄県浦添市勢理客四丁目14番1号 |
竣工 | 2003年7月 |
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