病棟構成の再編を含めた病院の建替え
お困りごと
- 病院既設棟(本館/199床)の老朽化に伴い一部建替えを検討していたが、介護療養病床の廃止予定を考慮し、今後の病院の方向性を検討する必要がある。
ケアミックス※の強みを活かし、さらに地域貢献する病院の将来像として、どのようなプランが考えられるだろうか。
- ※ケアミックス:一つの病院が急性期医療と慢性期医療、あるいは介護療養型の機能を併せもつこと。急性期、慢性期、介護療養型の各病床は施設基準などが異なるため、これらの機能は基本的には病棟単位で提供されます。
成功事例
愛知県西尾市にある医療法人 田中会 西尾病院は、明治28年に開設した県内で2番目に伝統のある病院です。「常に真心サービスで地域の皆様の医療と介護に貢献し、信頼されるよう努めます」を法人の理念に掲げ、急性期から慢性期、介護までを担う地域医療の中心的存在です。
2012年8月に、西尾病院の新棟(南館)が大成建設の設計・施工により完成しました。
新棟を既設棟と上空通路(渡り廊下)でつなぎ、病棟構成を再編しました。
ソリューション
一言に「将来の病院づくり」と言っても、その理想的な形は病院の数だけ存在すると言えます。地域の状況や病院の目指す医療のあり方によって検討内容は異なり、それに伴い、病院機能(病棟構成、人員配置など)や具体的な施設計画の内容も異なります。
「将来の病院づくり」を成功させるポイントは、多様で複雑な病院機能に対して、ハード・ソフトの両面から総合的に検討し、相互が有機的に機能するよう計画することです。このために、大成建設では、単に設計・施工を行うというだけでなく、病院の事業支援コンサルティング、エンジニアリング、設計・施工の各分野からなる医療福祉の専門チームが協力・連携しながら病院づくりを進める体制を整えています。
これにより、患者様の快適性、スタッフの機能性、さらに病院の経営効率まで考慮された病院が実現します。
病院の事業戦略を分析・検討
西尾病院の既設棟は、一般病床(90床)、医療療養病床(54床)、介護療養病床(55床)の計199床で構成されていました。既設棟のすぐ傍には「介護老人保健施設いずみ」が併設されており、入所・通所される方の健康管理や急変時にも対応できる体制を整えています。
そのような現状を踏まえ、病院の将来像についてお客様と対話を重ねるうちに「ケアミックス病院の強みを活かし、地域医療にさらに貢献したい」「回復期リハビリ病床を新設したいが、在宅復帰率のハードルが高く踏み切れない」というご要望が明確になりました。
そこで、まず周辺地域の急性期・慢性期病床の需給バランスや回復期リハビリ病床の整備率を調査しました。
病棟構成を再構築
既設棟における病床稼働率、患者構成、入院単価などについて現状を洗い出し、例えば「新棟を建設し、既設棟の病床を移して病棟構成を変えた場合、事業収支はどう変化するか」など、病棟構成を再編した場合の収支シミュレーションについて、パターン別に具体的に示しました。
その結果、一般病床を90床から60床へとスリム化することで、新入院患者数・看護職員数を変えずに看護基準を「15:1」から「10:1」へとレベルアップが可能になり、さらに亜急性期病床を併設することで在院日数も無理なくクリアできるようにしました。
また、それにより生じた病床で既存棟には新たに回復期リハビリテーション病棟を創設しました。
既設棟での課題、働くスタッフの潜在ニーズを設計に反映
病院における人・モノ・情報の流れはとても複雑です。それぞれの流れがスムーズか否かによって、その病院が患者さまやスタッフにとって快適であるかどうかが決まります。
大成建設のエンジニアリング本部 医療施設グループでは、人・モノ・情報の流れを正確に把握するために運用調査(現場での各部門スタッフへの詳細なヒアリングなど)を行い、明らかになった課題やニーズを設計へフィードバックします。例えば、患者さまとスタッフの動線、薬品など物品の動線を把握し、スタッフステーションや薬局、薬剤庫のレイアウトづくりに活かすなど、病院独自の運営にあわせた施設づくりを支えます。
地域性や病院マインドを表現
「三河の小京都」である西尾市の病院にふさわしいデザインを意識し、藍など日本の伝統色をモチーフに活かして和モダンに仕上げました。
院内の大部分は暖色系でまとめられ、窓が多く設けられていることから、とてもあたたかく明るい空間です。
お客様の声
医療法人 田中会 西尾病院 事務長 宮地 正浩 様
西尾病院に通院される患者さまの中には、「何世代にもわたりお世話になっています」とおっしゃる方も少なくありません。皆さんが「キレイな病院が建って嬉しい」「新しい病院は居心地が良い」と喜んでくださるたびに嬉しく思います。
私たちは、「真心のこもったサービス」を理念に掲げているように、患者さまに心地よく過ごしてもらうためのホスピタリティも、病院が提供するサービスの一つと考えています。そのような病院マインドを、居心地の良い病院づくりを意識した建物の機能性、デザイン性を通じて、感じ取っていただければと思います。
大成建設担当者より
大成建設 ソリューション営業本部ビジネス・ソリューション部 医療福祉計画グループ 近藤 正子
病院の今後の方向性を検討するに当たり、老健への転換や高齢者住宅の創設など多岐にわたり可能性の検証を行いました。また、一般病床については、3カ月にわたる患者様のレセプトデータを頂き、平均在院日数の短縮でどの程度入院単価が上がるかを試算するなど、私も多くのことを勉強させていただきながらご一緒に将来像を構築していきました。地域に信頼される西尾病院様の病院づくりに参加することができ感謝しています。
大成建設 エンジニアリング本部 医療・研究施設グループ 村山 達雄
エンジニアリング部門では、病院運営におけるムダ・ムリ・ムラを省き、患者さまやスタッフの方々の満足度を高める病院づくりを支えます。
今回のプロジェクトでは、現場での運用調査を通して病院の現状を分析し、課題やニーズを抽出しました。その結果、例えば「薬品など物品搬送の効率化」という視点で適正なレイアウトを考えたり、「西尾病院ならではの運用」を踏まえた要員配置を予測し、設計部門と考え方を共有しました。
大成建設 設計本部建築グループ 西村 浩一
患者さまやスタッフの方々が、院内で安全に快適に過ごせるような環境づくりを目指しました。新棟のレイアウトを計画する際には、エンジニアリング部門による運用調査の内容をプランに反映しながら、患者動線やスタッフ動線、物品動線の最適化を図りました。
大成建設のトータル技術を結集し、病院の事業性や機能性、快適性、デザイン性などお客様の望んでおられた病院のあるべき姿を具現化することができました。
新たに生まれ変わった西尾病院から、今後も患者さまに寄り添う高度な地域医療が展開されることを期待します。
工事概要
発注者 | 医療法人 田中会 西尾病院 |
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所在地 | 愛知県西尾市和泉町22 |
竣工 | 2012年8月 |
延面積 | 5,489.6㎡ |
URL |
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医療法人 田中会 西尾病院 事務長 宮地 正浩 様
老朽化の進む既設棟の一部を建替えようと院内で検討していたころ、2006年に介護療養病床の全廃決定の政策が発表され、将来の病院の方向性を見つめ直す転換期を迎えました。
「単に建替えを行うのではなく、今後の病院のあり方を再考し、場合によっては病棟構成を再構築する抜本的な改革を行うべきかもしれない」と考えてはいたものの、具体的にどうすれば良いのか、どこから手をつけるべきかが分からず悩んでいました。
具体策を模索している最中、大成建設が開催する医療フォーラムに当院の田中理事長が参加したことを機に、大成建設の医療専門チーム(コンサルタント部門、エンジニアリング部門、設計部門などで構成)に提案していただくことになりました。田中理事長は以前より、医療フォーラムを通して、大成建設の医療福祉施設づくりに関する考え方やプロジェクトの進め方などを認識しており、「将来に向けて新しい病院づくりを頼むなら、大成建設が適任だろう」と判断され、今回のプロジェクトをお願いすることにしました。
病院の方向性や事業性、適正な病棟構成などについて私たちとともに検討を重ねながら、およそ4年の歳月をかけてグランドデザインを描いていただきました。