株式会社貴和製作所 浅草橋本店

免震建物に建て替え、
お客様やお取引先様、社員に安心を提供したい。

株式会社貴和製作所 浅草橋本店

お困りごと

築後40年以上を経る本社・本店ビルを、地震に強い免震建物※1へと建替えたい。室内の有効面積はそのまま維持し、本社・本店ビルとして必要な機能とデザインを付加したい。

  1. ※1免震構造を採用して建てられた建物。免震構造では、建物と基礎(地盤)を切り離してその間に免震装置を設置し、地震のエネルギーがそのまま建物に伝わらないようにします。建物の揺れを大幅に低減することができ、建物内にいる人命を守ることはもちろん、機材などの転倒・破損や、建物自体の損傷を防ぎます。

成功事例

1975年に創業された株式会社貴和製作所様は、ビーズやチェーンなど多彩なアクセサリーパーツの企画・製造・販売を行い、お客様の創作意欲をかき立てるような魅力ある商品を提供されています。

貴和製作所様の本社および本店の機能をもつ浅草橋本店ビルは、東京・浅草橋の江戸通り沿いに建っています。築後約40年を経ており、建物の耐震化を検討されていたころ、東日本大震災が起こりました。

浅草橋本店ビル
浅草橋本店ビル
国内13ヵ所にて店舗を運営
国内13ヵ所にて店舗を運営

東日本大震災

株式会社貴和製作所 取締役 総務部 部長 阿久澤 満 様

浅草橋本店ビルで働く社員や、来訪されるお取引先様、お買い物に訪れるお客様の多くは女性です。2011年に起きた東日本大震災では浅草橋本店ビルが激しく揺れ、ビル内にいた女性たちは大きな恐怖と不安に包まれました。「地震が起きても安心な建物につくりかえたい」、「建替えるのであれば免震建物にしたい」と決心し、すぐに免震建物への建替えの検討を始めました。

数社の建設会社に相談したところ、ファサードのデザイン、柱のない構造、室内の有効面積など、他社よりも優れた提案をしていただいたこと、そして狭い敷地面積に免震建物を建てるという事を考え、技術的にも優れ、信頼性の高い大成建設にお願いすることにしました。

浅草橋本店ビルは、「安全・安心」「広くてフレキシブルな空間」「当社の世界観が投影された建物内外のデザイン」を備えた理想的なビルとして完成しました。

株式会社貴和製作所 取締役 総務部 部長 阿久澤 満 様

ソリューション

室内の使える面積を減らすことなく、狭小地のビル免震を実現!

今回のプロジェクトでは、室内の有効面積を最大限に確保しつつ、免震構造の建物を計画することが求められました。お客様のご要望にお応えするためには、狭小な敷地面積に対して可能なかぎり広く建坪※2を確保し、塔状比※3の高い“細長い建物形状”を採用することが有効でした。しかし、これらの条件のもとで免震構造の建物を成立させることは一般的に難しいと考えられています。

  1. ※2 建物の1階部分の床面積。
  2. ※3建物の短辺に対する高さの比。

免震構造

大成建設 設計本部 構造設計第二部設計室 渡辺 征晃

免震構造の建物は、地震のエネルギーを受けると免震装置が水平方向に大きく変位するため、隣地との境界にクリアランス(隙間)を設けなければなりません。建物の有効面積を最大限に確保するには、クリアランスの幅をなるべく取らずに敷地面積をめいっぱい確保することが有効です。そのためには地震によって起こる建物の水平移動を小さくする、つまり、限られたクリアランスでおさまる免震建物を成立させなければなりません。
しかし、クリアランスを小さくしようとすると、地震によって免震装置に引張力(免震装置を上へ引張ろうとする力)が生じやすくなり、引張力に対して弱い性質がある免震装置は成立しなくなります。

大成建設 設計本部 構造設計第二部設計室 渡辺 征晃

これらの「免震構造の建物には向かない」といわれる条件をクリアするため、計画の初期段階から、構造設計や意匠設計をはじめとする各部門の担当者が協働してプランニングを行いました。結果として、浅草橋本店ビルは塔状比5.3の非常にスレンダーな建物に仕上がっています。
塔状比の大きい建物でありながら、限られたクリアランスにおさまる免震性能を満たす建物を実現するため、建物の免震層※4と躯体※5にさまざまな工夫を施しました。

  1. ※4 免震装置を設置するための免震の層のことで、通常は床下に設けます。
  2. ※5建築物の基となる主要な構造体、または骨組みのこと。

免震装置

免震装置を組み合わせ、オリジナルな免震層を構築

免震装置には、例えば「地震のエネルギーを吸収する」ことに長けているオイルダンパーや、地震時の引張力による「建物の引き抜けを防止する」ために有効な直動転がり支承など、それぞれに特性があります。
「どのような免震装置を、どう組み合わせれば、今回の計画において最も効果的な免震性能を確立することができるか」について検討した結果、4種の免震装置を採用し、それぞれの能力・特性に合わせて、免震層内の適材適所に配置しました。

適材適所に配置した高性能免震システム
適材適所に配置した高性能免震システム
地震シミュレーションによる免震効果の検証
地震シミュレーションによる免震効果の検証

建物そのものを「低重心化」

地震による引張力そのものを建物に生じさせないため、建物全体の重心を下げる要素を躯体に盛り込みました。
具体的には、

  • 建物の上層階(5階~8階)の壁厚を薄くする一方、下層階(1階~4階)の壁厚を厚くする
  • 上層階の床にボイドスラブ※6を採用し軽くする一方、1階の床に1.0mの厚いスラブを採用して重くする

などが挙げられます。

  1. ※6 スラブ(床版)内部に空洞(ボイド)を設ける事で、自重の増加を抑える効果を持たせたスラブのこと。

生まれ変わり

大成建設 設計本部 構造設計第二部設計室 安藤 広隆

建物の免震層と躯体における試みにより、浅草橋本店ビルは、東日本大震災クラスの大地震が起きても人命を確保し、建物としての機能を維持するだけの強度を持つ免震建物として生まれ変わりました。
お客様のご要望にお応えするためには、従来「免震構造では難しい」とされていた概念から一歩離れて考える必要がありました。お客様からの命題があったからこそ、私たちも一丸となって挑戦し、新たな実績を築くことができました。

大成建設 設計本部 構造設計第二部設計室 安藤 広隆

大成建設 作業所建築担当 上田 俊英

ミリメートル単位まで緻密に計画された設計プランを安全かつ効率よく具現化するため、「どのような工法を採用し、どのような順序で工事を進めていくか」を詳細に検証しました。免震クリアランスの取り合いや、4種の免震装置を併用した免震層の構築など、制限のある中で初めて試みることの多い工事でしたが、無事に完成し、お客様の喜ばれる様子を拝見できて嬉しく思います。

大成建設 作業所建築担当 上田 俊英

無柱・無梁空間

広くて使いやすい無柱・無梁空間

フラットな壁と床のみで構成される「ボックスカルバート構造」を採用しました。室内に柱や梁が出ることなく、また階高3.6mながら天井高2.55mを確保し天井内の設備レイアウトもしやすく、広い室内で自由なレイアウトを行えるようになりました。

無柱・無梁の室内
無柱・無梁の室内
壁と床のみで構成されるボックスカルバート構造を採用
壁と床のみで構成されるボックスカルバート構造を採用

お客様の世界観を投影したデザイン

一つ一つにこだわりを持って、商品づくりをされている貴和製作所様の世界観を少しでも感じられるよう、「アクセサリーパーツを扱う会社にふさわしいデザイン」を意識して建物内外のデザインを行いました。
建物の顔であるエントランスは、お客様に、本を初めて開くときのように期待感をもって本店を訪れていただけるよう、「本の装丁」をイメージしたデザインを施しました。

貴和製作所

建物の表情

大成建設 設計本部 建築設計第三部設計室 伊原 慶

「浅草橋本店ビルが、人々の目にどのように映るか。貴和製作所様のコーポレートイメージに合っているだろうか」という視点を大切にしながら、建物の表情を描きました。例えば、丸いLED照明を天井にランダムに配灯し、外から見たときにビーズのきらめきを連想してもらえるように計画しました。華美になりすぎず自然体でありながら、「細かいところの気配りをしている」と思える建物づくりを貴和製作所様とともに目指しました。

大成建設 設計本部 建築設計第三部設計室 伊原 慶
浅草橋本店ビル

工事概要

発注者 株式会社貴和製作所
所在地 東京都台東区浅草橋2-1-10
竣工 2013年6月
延面積 1,087.4㎡
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関連情報

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