長崎みなとメディカルセンター

WORKS

長崎みなとメディカルセンター

1948 年の開院から長崎市民のための公的病院として、地域医療の中核を担ってきた長崎市立市民病院。建物の老朽化に伴う全面建て替えと合わせて、もう1 つの市立病院である成人病センターを統合する再整備計画が2017年に完了、「長崎みなとメディカルセンター」として新たなスタートを切りました。

既存病院を運営しながらの敷地内での建て替え、景観条例による30m の高さ制限という制約の中で、独創的な構造計画による理想的な部門ゾーニングと、先進的な外観デザインを実現。さらに長崎の歴史・文化の継承を目指した建築であることが評価され、日本建築学会の「九州建築選2017」受賞や、「インテリアプランニングアワード2018」入選など、いくつもの賞を受賞しました。

大成建設のソリューション

病院機能に応じ変化させたストライプの外壁

病院内部の室用途に応じた最適開口幅を確保しつつ、縦ルーバーの間隔を段階的に調整しました。このグラデーショナルなデザインが、シンプルな外観に彩りを添えるとともに、内部に快適性をもたらしています。

ストライプの外壁
病院機能がグラデ―トするストライプの外壁

敷地のコンテクストを読み解く

敷地は長崎駅からの「都市整備軸」と、亀山社中から中華街、オランダ坂をつなぐ「観光軸」に挟まれた位置にあります。長崎県美術館や、水辺の森公園などの先進的な景観と、活水女子大学などの歴史的な景観、2 つの異なる時代の景観をつなぐ新たな軸を創出しました。

敷地のコンテクスト
敷地のコンテクスト
きびるプラザ
エントランスアトリウムとしてⅠ期棟とⅡ期棟をつなぐ
「きびるプラザ」は、患者やスタッフの動線の基点でもある。
※「きびる」は九州地方の方言で「結ぶ」という意味

SPECIAL INTERVIEW

医療機能の集約と景観配慮の両立

長崎みなとメディカルセンター
Ⅱ期棟の屋上庭園より、Ⅰ期棟を見る。
屋上からは長崎港の入口に架かる女神大橋(右奥)のほか、
長崎市のランドマークとして広く市民に親しまれている
稲佐山も望むことができる。
長崎市立病院機構 理事長 兼松 隆之 氏(写真右)
大成建設 設計本部(長崎みなとメディカルセンター設計担当)
岩崎 篤(写真左)

─運営しながら全面的に建て替えるという、設計も含めると約7年間に亘るプロジェクトでしたが、この土地にどのような想いをお持ちでしょうか?

兼松氏:本院が位置する東山手地区は、江戸時代に外国人居留地として整備され、エキゾチックな建物と石畳の坂道「オランダ坂」のある風景で知られています。グラバー園、出島、中華街、3つの有名観光地の中央に位置し、今なお数多く残る文化遺産を後世へ引き継いでゆく、長崎でも重要な地区であると考えています。この地で長い間、市民病院として親しまれてきましたので、敷地内で運営しながら建て替えることはプロジェクトの命題でした。さらに成人病センターとの統合もあり、一層の難しさがあったと思います。それを設計や施工での様々な工夫、最適なローリング計画によって乗り越えていただき、こうして引き続き同じ場所、新しい建物で、多くの患者さんに質の高い医療を提供できることは嬉しい限りです。工事中に運営をストップすることもほとんどありませんでした。さらに救命救急センターや屋上ヘリポートも完備され、今まで以上に急患を受け入れ可能な施設を整えることができたと思います。

岩崎:今回は、既存病院に隣接した敷地にⅠ期棟を建て、既存病院解体後にⅡ期棟と駐車場棟を建てるという2 ステップのシンプルな建て替え計画となっています。最初のステップで必要な病院機能をⅠ期棟に集約する必要があるのですが、該当の敷地広さは普通に計画すると全ては納まらず、Ⅱ期棟完成までの間に仮設棟が必要となってしまいます。そこで構造計画を工夫してⅠ期棟の面積の最大化を図りました。Ⅰ期棟単体で迅速な高度急性期医療を展開することができ、 Ⅱ期棟の低層化も実現しています。

ローリング計画

兼松氏:仮設棟が不要となった上、引越し回数も抑えられたのが良かったですね。またⅡ期棟はちょうど既存病院と同じ位置に建っているわけですが、以前よりも高さを抑えられたので、背後に広がる丘に建つ活水女子大学の姿がよく見えるようになりました。私も大ファンの建物ですので、歴史的景観を再生できたのも誇らしく感じます。
この東山手は歴史的な地区として知られていますが、海側は、2004 年に長崎水辺の森公園、2005 年に長崎県美術館がオープンするなど、先進的な景観が広がります。その中間に位置する当院は、2 つの景観をつなぐ重要な役割を担っており、活水女子大学と長崎県美術館と連携し、アートを核に文化を醸成する取り組み「東山手文化構想」を進めています。院内に飾っている絵は長崎県美術館の館長が設置位置を決めてくださり、病院スタッフが常に首から下げているネームカードを活水女子大学の学生さんにデザインしていただきました。また当院の新しい顔となっているステンドグラスのあるホール空間は、普段は待合スペースですが、グランドピアノでのコンサートを開いたり、市民参加型のイベントを季節ごとに開催しています。

岩崎:私もただの病院施設で終わらせてはいけないという気持ちが当然ありました。敷地のコンテクスト(文脈)を読み解き、ボリュームもファサードデザインも意識して設計を進めていきました。この病院によって街がどう変わるか、この病院を通して長崎の文化や歴史をどのようにつないでいくかという難しい命題があったからこそ、良い建築がつくれたのではないかと思います。

兼松氏:2011年4月、長崎大学を退任し、本院に着任したのですが、その時はちょうど設計段階でした。各部門の病院スタッフが集まり、内装について細かく検討していたことには驚きました。各室のコンセントや水栓の位置まで、本当に様々な意見が出てくるので、岩崎さんをはじめ設計のみなさんも毎晩遅くまで付き合っていただいていましたよね。完成する最後まで、施工中も検討を重ねていただき、打ち合わせは計2,500時間にも及んだと伺っています。このプロジェクトに関わる全員のエネルギーを感じました。今、スタッフがこの建物に愛着を持っているのは、単に新しいということでなく、自分たちが考えてつくった施設だからというところが大きいのではないでしょうか。私も、面積が許せばスタッフ用の食堂をつくりたかったという想いはありますが、今、運営する中で、ここはこうした方が良かったという後悔は全くありません。これからも地域に根ざした市民病院でありながら、「メディカルセンター」という名に込められたように、国際都市を目指す長崎の一翼を担う施設を目指してゆきたいと考えています。

工事概要

発注者 地方独立行政法人長崎市立病院機構
所在地 長崎県長崎市新地町6-39
竣工 2017年1月
延面積 48,720.67m2
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