人と人、人と環境をつなぐクリエイティブオフィス

尾道造船所総合事務所

WORKS

尾道造船所総合事務所
南側外観夕景。透明度の高いファサードデザイン

1943年の創業時より、広島県尾道市に造船拠点を構え、船舶の開発・生産を行ってきた尾道造船。さまざまな船種に対応し、建造と修繕の両業務を行う国内でも数少ない造船会社の1つです。技術革新と地域貢献を経営理念に掲げる同社は、造船業、そして尾道の未来を見据え、クリエイティブなワークスタイルへの転換を図るべく、造船拠点のオフィス棟を建て替えました。各部門を縦につなぐセンターボイド、周辺環境を積極的に取り込んだワークスペースが、オフィス内だけでなく、隣接する工場や地域も含めた「人と人の近接性」を高めます。

海と坂のまち、尾道を代表する造船所のオフィス建て替え計画です。周辺環境を積極的に取り込み、山側の安定した光環境が得られる執務スペース、国道を挟んで建つ工場と海を見渡す通路、海と山と空を感じる屋上庭園で構成。さらに各階を縦につなぐセンターボイドや、透明度の高いファサード、工場に直結する連絡通路によって、オフィス内だけでなく工場も含めた「人と人の近接性」を高め、よりクリエイティブなワークスタイルへの転換を目指しました。

海上より造船工場と総合事務所を望む
海上より造船工場と総合事務所を望む

大成建設のソリューション

各部門をつなぐセンターボイド

人と人の近接性を高めるために、3、4、5階に、工務部門、設計部門、事務部門を各々配置し、プラン中央のセンターボイドの階段でつなぎました。階ごとに床の形を変えて、他階の様子が分るようにしています。各階オフィスは見通しの良い無柱空間とし、部門内の見える化を図りました。

3階平面図
3階平面図
センターボイド断面図
センターボイド断面図

SPECIAL INTERVIEW

階段で人とすれ違ったり、他の部署の働く様子が垣間見えるだけで、大分変わるはずです

各部門をつなぐセンターボイドを見上げる
各部門をつなぐセンターボイドを見上げる
尾道造船 代表取締役社長 中部 隆 氏(写真右)
大成建設 設計本部 関 政晴 (写真左)
─設計当初から、明るく、開放感のある空間にこだわられていましたが、どのような想いをお持ちだったのでしょうか?

世界中のクライアント企業、とくに北欧諸国の海運会社をよく訪れるのですが、彼らのオフィスは、日照時間が限られた冬に少しでも多くの光を取り込めるように開口部が大きく、広々として風通しが良く、明るいインテリアが印象的です。その空間で働く人々は、実に生き生きとしている。一方で、50 年前に建てられた当社の旧オフィス棟は暗い印象で、今のパソコンを中心とした業務環境を充実させづらいなど、さまざまな問題を抱えていました。最大の課題であると感じていたのが、フロアごとに分かれた部署間でコミュニケーションが取りづらいという点です。田舎の古い会社なので、人間関係で業務が成り立っている側面がありますが、物理的に離れていると、いつの間にか疎遠になってしまうものです。
ことさら造船業界の国際競争に勝つためには、スピーディな情報共有、そして一体感のあるチームワークが求められます。IT だけでなく空間的にもつながっていることが必要不可欠で、クリエイティブな発想を生むためには、「人と人の近接性」が重要であると感じていました。そんななか、耐震性能に問題があることがわかり、建て替えを決意しました。

─今回の建築では、まさに「つなぐ」がキーワードになりました。まずは、船づくりを一気通貫で行う工務、設計、事務の3 部門を、それぞれ3、4、5 階に配置し、各フロアは見通しの良い無柱空間とすることで「部門内の見える化」を図りました。さらに各フロア中央に設けたセンターボイドの階段でつなぎ、移動する合間などに「他階の様子が伺える」ようにしています。

階段を使う方がエレベーターよりも早いことが多いので、社員も頻繁に使っています。階段で人とすれ違ったり、他の部署の働く様子が垣間見えるだけで、大分変わるはずです。さらにセンターボイドまわりには、ハイカウンターなどのミーティングスペース、ホワイトボードや書棚が配置され、社員が自然に集まる仕掛けが詰まっています。これらにより部門内だけでなく、部門の垣根を越えた闊達なコミュニケーションが促進されることを期待しています。
また、今回の建て替えによって、国道を挟んで向かい合う工場との距離もぐっと近くなりました。会議中、あるいはエレベーターやトイレなどを使うとき、工場の様子がよく見えますし、工場からもオフィス棟内が見えます。実は、当初、敷地手前の国道寄りに建てるという発想が全くなかったので、提案をいただいた時は非常に驚きました。しかし、さまざまな課題を一気に解決し、プラスに転じさせる「変形プラン」には合点がいきました。とくに、住宅では南向きを良しとするのが一般的ですが、関さんからの「南からの強い光はパソコン作業には不向きで、光が比較的安定している北側の方がオフィスには向いている」というアドバイスは、まさに目から鱗でした。また、国道に架かっていた古い歩道橋を掛け替えつつ、新たに工場とオフィス棟を空でつないだ屋根付渡り廊下は、社員にも大好評です。

人も空間ももっと自由に、クリエイティブになって、世界をリードする造船会社を目指します

─本プロジェクトでは、ファシリティマネジメントの考え方にそって計画を進めました。使い手の真のニーズを把握するために、社長をはじめ各部門のマネージャークラスを対象に、大成建設の個別インタビュー手法「T-PALET」を実施しました。専用のボードやカードなどを使用して1 人約1 時間のインタビューを行い、それぞれが思う理想のオフィスについて、イメージを掘り下げていきました。

東京で暮らしたことも、働いたこともないという社員がほとんどなので、まず「新しいオフィス」をイメージすること自体が難しい。社屋の建て替え経験もなく、不安はあったと思います。これからの造船業、尾道という街の未来を見据えれば、開放的な業務環境がいかに大切か、大成建設のみなさんと一緒になって、とことん社員と話し合いました。

─オフィスを街に開く、国道に対してオープンに構えることにもこだわられていましたよね。塀で囲わずに緑を植えた外構も、社員のみなさんと社長が膝を突き合わせて話し合い、実現したことの1つです。

尾道の魅力は、海と坂がつくる景色です。国道によって分断されてしまった海側の工場と山側のオフィス棟を再びつなぎ、人と人、人と環境をつなぐ建築をつくっていただけたと思います。
建て替えを機に、業務環境を多角的に見直したのですが、例えば、以前はオフィス棟で働く社員も、工場の現場で働く社員と同じ作業着を着ていました。理由を訊くと「現場への配慮」だと言うので、現場に訊いてみたら「そんな配慮は不要で、むしろ必要のない作業着があれば、夏の着替えに欲しい」という話でした。それで作業着やユニフォームを廃止しようとしたら、今度は服装規定が必要だと言うのです。でも、ルールは人を考えさせなくなってしまう。
その日、仕事に着ていく服を自分で選べないようでは、仕事もできないと思うのです。他人との距離感がうまく図れず、その責任を自分でとらない人が増えると、会社は弱体化してしまいます。自分で考えて判断できる人が減ってきているから、日本が弱くなっているのではないでしょうか。人も空間ももっと自由に、クリエイティブになって、世界をリードする造船会社を目指します。

入り組んだ坂道を巡るように各階をつなぐ、センターボイドの階段
入り組んだ坂道を巡るように各階をつなぐ、センターボイドの階段

工事概要

発注者 尾道造船株式会社
所在地 広島県尾道市
竣工 2018年12月
延面積 8,024.88m2
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