大成建設 ウエルネス作業所
人がいきいきと働く、建設現場をつくる。

「ウエルネスレシピ」を組み合わせ、現場ごとのワークプレイスを構築
藤本:これまで設計本部では、自分たちのワークプレイスを自らの手でよくしていこうと、本社や支店のオフィス、技術研究所など、働く環境を進化させてきました。2020年からは「TAISEI Creative Hub」と銘打ち、新たなワークプレイス構築の実践や、データやノウハウの蓄積も図っています。
出口:建設作業所は仮設ながらも、「ものづくり」と「思考」が同居するクリエイティブな場ですが、これまで経済合理性が優先され、働く人への配慮が希薄だったと言えます。それを空間、仕組みづくりの力で乗り越えていこうとする「ウエルネス作業所」は、プロトタイプとなった赤坂中学校等の現場から、この東関道地下道化の現場まで、この5年間で12件実現し、今後さらに3現場でも計画中です。構想以来、私を含む設計本部の若手有志で企画・設計をしてきましたが、藤本部長や林さんも加わり、これまで構築してきたコンセプトの全社的な展開に向けて、デザインの標準化など実践のフェーズを迎えています。
嶋本:当社が関わる建設現場は全国で800近くに及びますが、作業所をどこに、どうつくるかは所長次第です。基本的には敷地などの条件、働く人数、工期などをふまえてリース会社に発注します。プレハブ方式とユニット方式があり、諸条件によって自ずと決まります。仕様もベースのものが用意されているので、特にユニット方式の場合は、どの現場でも似たような建物になりがちです。
林:ウエルネス作業所も、作業所がリース会社に発注する仕組みは同じですが、リース会社の既存メニューや調達可能な資材をもとに、ABWやWELLの考え方を採り入れた「ウエルネスレシピ」を用意し、その組み合わせによって各現場にあわせたワークプレイスを構築します。東関道の作業所では個々のワークプレイスの計画にあたっては心理学の知見を応用した多様な場づくりも提案しています。
出口:設計本部内でアイディアを出し合うだけでなく、作業所長との意見交換や、社員へのアンケートなどもヒントになっています。このプロジェクトを通して知ったのですが、建築と土木の作業所では少し文化が異なります。例えば、建築は土足が基本ですが、土木は靴を脱いで上がる作業所が多いですよね。そのため2階建て以上の場合、建築はほとんどが外階段なのですが、土木は内階段が多い。これがまさに「目から鱗」、大きな気付きでした。内階段にすることで上下階の移動が容易になり、コミュニケーションが促進され、室内が汚れにくいなど多くのメリットがあり、重要なレシピの1 つになっています。
嶋本:これも所長次第ではあるのですが、大抵、土木は建築よりも作業所の使用期間が長く、土や砂埃が作業服に着くような工程自体も長いので、室内に持ち込まないのが基本です。また敷地に余裕がある場合が多いので、下足スペースをつくりやすいという側面もあります。ただし都市部では近隣のテナントビルの一角に作業所を構えることも少なくありません。昨今の環境配慮や働き方改革への対応も、本当にケースバイケースで工夫をしているという状況です。
環境省新庁舎改修作業所
屋内外の随所にベンチやテーブルを設置するとともに、半屋外+半屋内の「中間領域」を設け、多様なワークプレイスを構築した。
九州地方某作業所
国内最大級規模、床面積約7,500m2の仮設事務所。
現場を一望できる横連窓とポリカーボネート外壁による自然採光により、明るい執務スペースとした。
建設作業所の「空気感」を変える
藤本:今回の大きなポイントが「1人あたりの面積」で、通常の1.2倍にしました。この現場同様、郊外のインフラ整備などの現場は周辺に何もないことが多いので、丸1 日を建物内で過ごすことも念頭に入れて設計しています。屋外に休憩スペースをつくれない現場だったため、エントランス入ってすぐのところに打ち合わせスペースを兼ねたインナーガーデンを設けています。光を積極的に採り込むためにポリカーボネート中空パネルの外壁など、新しい建材にもチャレンジしました。
嶋本:本当は会議室がもう1つ欲しかったのですが、インナーガーデンにして本当に正解だったと思います。大きなロングテーブルを置いたので、職員だけでなく、職人や業者との気軽な打ち合わせなど、コミュニケーションの場として非常に重宝しています。
林:2階の床を2スパン分だけ張らないようにして、人工芝を敷き、アウトドアチェアを置いただけなのですが、細長い平面の中央に据えることで、空間にグラデーションをつけることも意識しました。
嶋本:動線が長いという声も一部ありますが、集中したい時は端っこの方で作業して、みんなとコミュニケーションをとりたい時はこのテーブルに集まったり。個人的には快適です。でも初めての業者さんが扉を開けた瞬間、アウトドア製品のオフィスか何かと勘違いして、帰ろうとしたこともありましたよ(笑)。およそ作業所らしかぬ雰囲気です。


RECHARGE BASE 東関道地下道化(トンネル)工事作業所
藤本:まさに今回は「空気感を変える」ことを重視しました。建設現場の環境改善に対する社会の関心が高まる中、作業所や詰所という名前も変えるくらい、大きな変革を起こしたいと思っています。この作業所は今後のフラッグシップモデルとなる位置付けですが、スペックというよりも、意識改革のシンボルにしていきたいですよね。
出口:仮設がゆえに、なおざりにされてきた世界だと思うので、何か1つのレシピでも、気付きになるといいですよね。コストバランスも重要なので、既製品や現場にある資材、サンプル品なども活用しています。
林:この作業所でも、壁4面全てを普通に仕上げるかわりに、1面だけコストをかけ、残り3面はラフに留めておくなど、メリハリをつけました。また、1階は天井を張らずに2階の木の床をそのまま見せて、ガレージハウスのような雰囲気にまとめています。ただし従来は天井裏に隠れていた配線が表に出てくるので、キレイにおさめてもらうように監理するなどの必要はありました。
出口:環境配慮対策なども推進しているので、今はまだ私たちが関与する必要がありますが、将来的には100種類くらいのレシピを用意して、各現場で自律的にウエルネス作業所を構成できるようにしていくことを目指しています。そのためにも、全国にある各現場で蓄積されている工夫を集約したいですよね。横浜文化体育館再整備の現場では、家族のための現場見学会を実施しました。これも働きがいのある職場づくり、エンゲージメント向上に一役買う、立派なレシピです。
藤本:現場は本当に大小さまざまなので、レシピ化は大変な作業になりますが、標準化することで調達もしやすく、コストダウンにもつながります。ウエルネス作業所のさらなる普及の鍵を握っていると思います。
嶋本:昨今、建設業界の人手不足は深刻で、特に若手の離職率の高さや地域格差への対応が喫緊の課題です。今後の展開に期待しています。

港区立赤坂中学校等整備工事作業所
大成建設 東京支店 港区立赤坂中学校等整備工事作業所 作業所長
「原点回帰モノづくりを楽しもう」をテーマに掲げた本現場でプロトタイプ版をつくることになり、所員はもちろん、職長や職人がいきいきと仕事に取り組むにはどうしたらいいか、出口さんとじっくり話し合いました。そんな中で生まれたレシピが「職長ミーティングスペース」です。通常詰所につくる職長室を事務所棟1階につくり、気軽に立ち寄れる場としました。朝から温かいご飯が食べられる売店なども好評で、コロナ禍ながら自発的な環境改善の動きもあり、コミュニケーションの活性化を実感しました。

