森に生息する生き物を守る大成建設の活動をご紹介します

ニホンヤマネと大成建設

生きた化石!?森の妖精「ヤマネ」をご存じですか?

ヤマネ博士との出会い“ヤマネは超省エネ動物です”

2003年、経団連自然保護協議会の参加企業とNGO/NPOとの交流会の席で、公益財団法人キープ協会のヤマネ博士の湊先生より「ニホンヤマネは6~7ケ月も冬眠する動物で、極めて省エネ。省エネのコマーシャルキャラクターに使ったらどうでしょうか?」とのお話があり、印象的でした。

今、小学校3年生の国語の教科書に「森のスケーターやまねの話」が載っていますので、子供たちのほうがヤマネについてよく知っています。
ヤマネ博士の話では、ヤマネは恐竜が絶滅した後の約5000万年前から地球に存在し、ヨーロッパ、アジア、アフリカに分布しています。日本の固有種であるニホンヤマネは約50万年前の化石が見つかっているそうです。リスやネズミと同じ齧歯類に属しますが独立したヤマネ科であり、国の天然記念物で準絶滅危惧種に指定されています。

一度見てしまうと誰もがファンになってしまう森の妖精であるヤマネは、国内では8つの遺伝子(DNA)系統で分類され、若干毛の色や顔つきが違うそうです。ヤマネ博士は和歌山生まれですので、紀州ヤマネが一番いい顔立ちのヤマネだと主張しています。

ヤマネ博士の湊先生(キープ協会やまねミュージアム館長、関西学院大学教授)
ヤマネ博士の湊先生 (キープ協会やまねミュージアム館長、関西学院大学教授)

驚きの生態ゆえに「眠りネズミ」の異名も

ヤマネは不思議の国のアリスのお茶会の場面で、どんなにいたずらされても眠っている動物として知られています。

wikipediaより不思議の国のアリス(ウサギの隣がヤマネ)
wikipediaより不思議の国のアリス(ウサギの隣がヤマネ)
冬眠時の丸まったヤマネ
冬眠時の丸まったヤマネ

外気温が9℃ぐらいになると森の中の腐葉土の下や洞の中で体温を通常の36℃から1℃付近まで下げて冬眠します。外気温が-7℃になると、逆に生命の危険を感じて起きだし、ねぐらを変えるそうです。起き上がるのに50分以上も掛かります。巣の戸をあけても決して逃げません。極めてねぼすけな動物です。

海外では眠りネズミなどの名前がついており、日本でも地方では「氷鼠」や、ボールのように丸くなって眠るので「鞠鼠・小玉鼠」などとも呼ばれているようです。大きさは約8cm、尾はふさふさの毛が生えています。体重はおよそ18gで、大変小さく可愛い哺乳類です。冬に木を切ると木の中から転げ落ちてくることから林業ではヤマネを山の守り神として崇めています。

日本の動物園では唯一、上野動物園に飼育されているのですが、夜行性ですのでなかなか見られないかもしれません。
清里にある、湊博士が館長をされている「やまねミュージアム」では冬場の冬眠状況が公開されることがあります。

分断されたヤマネの森をつなぐ!森の架け橋「アニマルパスウェイ」

ヤマネと大成建設との縁は、2002年に公益信託大成建設 自然歴史環境基金で支援させていただいたのがきっかけでした。
2004年1月には経団連により建設業とNGO/NPOの懇談会が開催され、この時、ヤマネのための道路上のブリッジ開発への協力要請を受けました。4月に財団法人キープ協会のやまねミュージアムで第一回目の研究会を開催し、道路上に架ける安価な樹上性野生動物の通り道を「アニマルパスウェイ」と名付けて、研究会の名称としました。

研究会のメンバーは樹上性の哺乳類の専門家集団であるニホンヤマネ保護研究グループの皆さん、私たち建設関係者、道路上の電柱や架線関係のプロである通信会社などで、既におよそ9年の間、地道な調査や実証的研究開発、普及活動を行っています。

建設業は森の中に道路を建設することがよくあります。森に生息する生き物に対して、もちろん配慮はしてきましたが、樹上性の哺乳類のヤマネやヒメネズミ、リスなどへの配慮が十分にできているとは言えません。
湊先生は1998年に清里高原の道路工事でヤマネの棲む森が分断され、建設機械などでヤマネが踏まれてしまうことに懼れを感じ、県と交渉して、道路標識と兼用のヤマネブリッジの設置を行いました。しかし、このブリッジは高額なため、普及するためにはコストダウンする必要がありました。こうした背景から、大幅なコストダウンを目的の一つとしてアニマルパスウェイの開発が進められたのです。道路管理者の多くが地方自治体ですので、安価なパスウェイならば普及できると考えたのです。

大成建設ではアニマルパスウェイの開発と同時に、2005年よりヤマネ研究に重要な巣箱づくりのボランティアを始めました。現在は、毎年八ヶ岳が最も美しい冬の季節に、当社社員のみで実施しています。

清里高原の有料道路(2005年より無料)のヤマネブリッジ
清里高原の有料道路(2005年より無料)のヤマネブリッジ
冬の八ヶ岳
冬の八ヶ岳

森の架け橋“アニマルパスウェイ”

アニマルパスウェイとは?

森の中で、ヤマネやリス、ヒメネズミなどの樹上性動物は、木の枝から枝をつたって森の中を移動し、餌やパートナーを探したりしています。これらの動物にとって木の枝は移動経路であり、欠かせない「道」の役割を果たしています。
森が道路開発などによって分断され樹上性動物が移動経路を失うと、道路を無理に横断してロードキル(道路上での轢死事故)に遭ったり、餌を採取しにくくなったり、繁殖機会が減少してしまうなど、個体数の減少につながってしまいます。

「アニマルパスウェイ」は、開発によって失われた移動経路を確保するための、いわば森に架ける橋なのです。

アニマルパスウェイの開発と実証実験

2004年春、清里のやまねミュージアムに集まったアニマルパスウェイ研究会のメンバーは、ヤマネの棲む森の状況やヤマネブリッジを視察しました。
その上で「アニマルパスウェイの形状や材質をどうするか」「ヤマネブリッジよりもコストをできる限り廉価なものにするにはどうすればいいか」など意見を出し合いました。公益財団法人キープ協会のヤマネ博士の湊先生からは「100万円でできない?」との発言がありましたが、2000万円のヤマネブリッジに対して1/20にコストダウンするのは至難の業に思えましたので、目標は1/10の200万円(本体と工事費込)としました。

アニマルパスウェイは道路の上に設置するものですので、車や人に安全でなければなりません。自然と同じ木造が好ましいかもしれませんが、有機物は腐りやすいため落下する危険があります。そこで、鋼製ワイヤーやアルミ、銅などの金属を用いて、なるべくメンテナンスが不要である材料を選ぶことにしました。

「ヤマネたち野生の哺乳類がワイヤーやアルミ製の構造物を利用するだろうか?」という点を確認するため、数々の実証実験を行いました。
やまねミュージアムはニホンヤマネを保護し生態を研究する機関でもあり、近くの別荘地などで冬眠していて保護されたヤマネが持ち込まれます。これらを保護して野生に戻すための施設がミュージアムには完備しており、その施設を使ってヤマネがワイヤーやアルミを嫌がらないかミュージアムのスタッフが徹夜で観察し、どの太さのワイヤーが最適かなどの実験データを取りました。その結果、ワイヤーを嫌がらず、太いほど利用率が高いことがわかりました。

ヤマネによる実証実験
ヤマネによる実証実験

アニマルパスウェイを利用する可能性のある樹上性の野生生物はヤマネだけではありません。夜行性の動物としてはニホンヤマネ(英語ではDormouse)と同じほどの大きさでやはり日本固有種のヒメネズミ(Small Japanese Field mouse)あるいはムササビやモモンガなども考えられます。昼行性ではすでに九州や中国地方では絶滅が危惧されている個体群のニホンリスがいます。いずれも枝から枝を主な通り道として利用するので、道路などで分断された森では道路上で交通事故に遭う確率が高くなります。

多様な種類の樹上性動物が利用できるために

開けている所を好むリスに対し閉所を好むヤマネやヒメネズミなど、それぞれの習性や好みは様々です。そこで、形状を正三角形のトラス型の吊り橋とし、吊り橋のメインケーブルには鋼製ワイヤーを用い、アングルフレームも鋼製のものを適用しました。
雪やつららは道路を利用する車や人の安全性に最も関係します。積雪などで最も荷重がかかると思われる屋根や床は、積雪が溶けやすいように熱伝導率の高いアルミと銅メッシュを組み合わせた構造としました。ニホンヤマネは逆さ歩きを好みますので、屋根の下にロープを張りました。支柱はコストを削減するためにもどこにでも建っているコンクリート製電信柱です。これらの模型を作ってケージ内に設置し、屋根などを利用するかどうかも確認しました。これらの検討に1年半を掛けました。

ケージ内での模型実験風景
ケージ内での模型実験風景

2005年10月、キープ協会の所有する敷地内の私道上に、初めて実証用のアニマルパスウェイを架設しました。本当に動物が利用するかをモニタリングして確認するため、TVカメラ2台と支柱の隣にもう1本支柱を立て取り付けたBOXにデータレコーダーを収納しました。
アニマルパスウェイは山間部に設置される可能性が高いので、標高約1300mの場所に設置された実証用アニマルパスウェイでは積雪・融雪状況を確認することも目的のひとつでした。氷点下10度程度でもアルミや銅の熱伝導率はきわめて高いため、積もった雪がすぐに溶けることがわかり、つららはできないことが実証できました。

実証用アニマルパスウェイの積雪状況の調査
実証用アニマルパスウェイの積雪状況の調査

しかし、なかなか動物が利用する映像は得られません。意を決したモニタリングシステム担当メンバーの一人が、5月の連休に寝袋持参で現地に赴き、目視観察しながらカメラをセットして待ちました。すると、なんともタイミングの良いことに、観察をスタートして間もなく、青空をバックにアニマルパスウェイをニホンリスが見事に渡ってくれたのです。幸い、この時の状況をデジタルカメラのムービー機能で撮影できました。

初めて撮影したアニマルパスウェイを渡るニホンリスの連続写真
初めて撮影したアニマルパスウェイを渡るニホンリスの連続写真

さらに手持ちの望遠レンズのアナログカメラでも同時に撮影するという奇跡的な神業で、素晴らしい写真も撮れました。まだ朝の9時半ごろでしたが、早速現地からヤマネ博士や研究会メンバーに電話がありました。実際に見ることはできませんが、皆さん飛び上がって喜んでいたようです。

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