森に生息する生き物を守る大成建設の活動をご紹介します

ニホンヤマネと大成建設 Vol.02

ついに架けられたアニマルパスウェイ!意外な動物も利用?

山梨県北杜市の市道上に、アニマルパスウェイ1号機が完成!

2005年10月に架設された実証用のアニマルパスウェイでは、その後もニホンリスが頻繁に利用している姿が確認され、2006年秋にはニホンヤマネも利用していることを確認できました。

そこで、ニホンヤマネを市の動物に指定している山梨県北杜市の市長に、公益財団法人キープ協会 やまねミュージアム館長の湊先生から「森を分断している市道の上に、アニマルパスウェイを建設しませんか?」と提案されました。市長からは早速、どの地点に作るべきか検討しましょうと回答いただき、今までニホンリスやヤマネがロードキル(道路上での轢死事故)に遭っていた場所に近い道路沿いの森を調査しました。

ボランティア団体の助力を得て、ニホンリスが松ぼっくりをかじるとできる食痕(通称、エビフライと呼ぶ)や糞を探し、ヤマネの餌となるサラサドウダン、営巣あとや巣箱調査、あるいはヒメネズミをトラップ(動物用のわな)でとらえるなどを行い適切な場所を選定しました。森が連続していれば、枝から枝を頻繁に樹上性動物が行き来していたであろうと思われるその場所に、アニマルパスウェイ研究会で開発・設計したアニマルパスウェイ1号機が2007年7月に完成しました。

そこは、やまねミュージアムから約800mの距離に位置します。モニタリングの方法は、アニマルパスウェイに設置したTVカメラの映像を有線で伝送し、ミュージアム内で記録することになりました。さて、どんな動物が最初に利用したのでしょうか?

モニタリングで確認できた、森の住人たち

アニマルパスウェイ1号機を設置してから17日後、初めてヒメネズミが利用し、その翌日にはヤマネが利用する様子を確認できました。毎日、ほぼ一日中モニタリングを続けたところ、約3ケ月間に800回以上も利用していることがわかりました。ほかにも、ビンズイ、ヒガラ、コガラ、シジュウカラ、ヤマガラ、キビタキ、ゴジュカラなど、様々な鳥がアニマルパスウェイにとまって羽を休めたり、クモの仲間など昆虫が頻繁にアニマルパスウェイを行き来していました。

1号機を利用するニホンヤマネ(ロープを逆さ走りしています)
2号機を利用するニホンヤマネ(ロープを逆さ走りしています)
1号機でバトルする2頭のヒメネズミ
1号機でバトルする2頭のヒメネズミ

しかし、ニホンリスはやってきません。近くにアカマツの木もあり“エビフライ”が落ちていたにも関わらず、どういうことでしょうか?

翌々年の2009年1月、電柱や通信技術のプロであるNTT東日本の皆さんにも研究会に加わっていただきました。NTTさんは保有技術やノウハウを活かし、アニマルパスウェイから森への導入路を付けることを提案されました。すでに、アニマルパスウェイに向かって折れた枝木などを掛け合わせ、アニマルパスウェイに繋がる簡単な道をボランティアの皆さんに作っていただいていましたが、さらにこれを強力なものにしたらどうかということでした。
そこで、電線を保護するFEPという管を使って森への導入路を設置する方法を試してみたところ、すぐにニホンリスが現れました。

車が通過しているにもかかわらず、アニマルパスウェイを利用するニホンリス
車が通過しているにもかかわらず、アニマルパスウェイを利用するニホンリス

続いて予期せぬ動物も・・・?!

なんと、小動物の天敵であるホンドテンが確認されたのです。ホンドテンは地上を動き回りますが、樹上で過ごすことも多く、極めて俊敏な動物で知られています。その後の映像で、数日置きにホンドテンがやってくることが判明しました。

2号機を悠々とわたるホンドテン
3号機を悠々とわたるホンドテン

森の中では、毎晩が生きるか死ぬかの戦いです。生態系ピラミッドの頂点には、夜はフクロウやキツネなど、昼間はオオタカなどが位置します。食物連鎖では、それらの動物がヤマネやヒメネズミ、リスなどの天敵になります。そこで、アニマルパスウェイにはいくつもの工夫が施してあります。例えば、支柱には動物が登れるように天然あるいは人工の木の皮が巻いてあります。屋根はフクロウなどから身を守れるようになっており、メイン通路の床の側面にはアルミでできたシェルターがところどころに設置してあります。

その後、八ヶ岳高原道路(県道)にもアニマルパスウェイ2号機が建設されました。調査の結果、ここにはニホンリスの好むアカマツが少ないため、ヒメネズミとヤマネが主な対象動物となりました。予想通り、2号機の主な利用者はこれらの夜行性動物であり、ホンドテンも利用していることがわかりました。
2011年には環境省からの依頼により、研究会で設計したアニマルパスウェイが那須平成の森(国立公園)の県道上に設置され、ヤマネやニホンモモンガが利用していることが確認されました。
今後も、一体どんな動物が利用するのか楽しみです!

生物多様性の保全をサポートする、私たちの取り組み

「生物多様性」から私たちが受ける恩恵

地球上には、多くの異なる生物が様々な環境の中で生息しています。そして、私たちの周りにも、地域の自然環境の条件に適応したそれぞれの生物が相互に関連し合って生息する川、海、森などの「生態系」が存在しています。生物多様性とは、このような生物の種類と生息環境が多様であることを意味し、自然環境の豊かさを示しており、私たちはそこから多くの恩恵を受けて暮らしているのです。

生物多様性保全のひとつには「遺伝子の多様性」が挙げられます。
森林が分断されると近親的な遺伝子となり、だんだん劣化すると言われていますので、アニマルパスウェイによって森と森をつなぐことは遺伝子の多様性を保全することにつながります。

アニマルパスウェイ研究会では、アニマルパスウェイの開発から、その後の調査・研究、国内外への普及活動などを通して生物多様性の保全につながる取り組みを行っています。また、研究会メンバーの一員である大成建設は、2005年から毎年冬に“ヤマネの巣箱づくりボランティア”を実施しています。

だれでも、野生生物をインターネットで見つけられる“あなたも調査員”

アニマルパスウェイ研究会では、2010年からアニマルパスウェイで撮影されたモニタリング映像をホームページに公開し、みなさんにも調査員になって野生生物を探してもらうシステムを作り活動しています。1時間ごとに切り出した映像を10分ほどで見てもらい、何か生き物を見つけたら報告してもらう仕組みです。

「あなたも調査員」システム画面
「あなたも調査員」システム画面

これまでに2回集計してみたところ、それぞれ百数十回見てもらい、ヤマネ、ヒメネズミ、リス、テンや鳥などの報告がありました。アニマルパスウェイでのモニタリング調査は、ヤマネの冬眠時期を推測する際などに役立てられており、ヤマネ博士(公益財団法人キープ協会の湊先生)やスタッフの長年の調査研究によって冬眠の習性や行動範囲、繁殖するために必要な餌の種類や栄養素など、その生態行動に関する様々なことが分かってきました。
そして2012年に撮影したモニタリング映像を12月から公開しています。

大人気の巣箱づくりボランティア

大成建設が毎年冬に実施している“ヤマネの巣箱づくりボランティア”では、今までに1600個余りの巣箱を制作しています。このボランティアはとても人気があり、募集をするとその日のうちに定員オーバーになってしまうほどです。家族での参加が多く、子供たちにもヤマネは身近な存在となっているようです。毎回200個ほど制作される巣箱は、清里高原の森の中に設置するだけでなく、隠岐の島や和歌山などでヤマネを保護する団体にも寄贈されます。

ヤマネの巣箱づくりボランティア
ヤマネの巣箱づくりボランティア
湊先生による巣箱づくりの伝授
湊先生による巣箱づくりの伝授
アニマルパスウェイの見学
アニマルパスウェイの見学

ボランティアでは、実際にアニマルパスウェイを見学し、森の中を散策しながらヤマネの巣箱を観察するプログラムも組まれており、森が分断されることによって樹上性の野生生物にどの様な悪影響が及ぶかなど、自然保護の大切さについてわかり易く伝えています。多くの子供たちに生物多様性の一端を知ってもらう良い機会となっています。

現在、アニマルパスウェイは清里での環境教育プログラムに活かされているだけでなく、体験学習としてアニマルパスウェイへの導入路の建設や調査、ヤマネの巣箱づくりや巣箱調査などボランティアへの参加、エコツーリズムの目的のひとつとして現地での環境教育に活用するなど、森の生物多様性の学びの場として様々に役立てられています。那須平成の森でもガイドツアーのコースになっています。

地球規模で「生物多様性」を考えるCOP10への参加

生物多様性」という言葉が新聞紙上に勇躍したのは2010年に名古屋で開催されたCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)がきっかけでした。COP10では、2020年までの生物多様性保全に関する国際的な目標「愛知ターゲット」が策定され、その第一の目標は「人々が生物多様性の価値を認識する」ことです。
アニマルパスウェイ研究会の様々な活動は、COP10関連行事の一環として開かれた経済界と各国閣僚級との懇談会にて、大成建設山内社長より生物多様性の取組みに関する講演の中で「生物多様性保全の事例」として紹介されました。

また、アニマルパスウェイ研究会によるブース展示や国際シンポジウムも開催され、

  • ボルネオの熱帯雨林が減少する中、森に棲むオランウータンが川などで分断された森を行き来するための消防ホースによる吊り橋プロジェクト
  • ヨーロッパなどでのヤマネや他の動物のためのハビタットブリッジ
  • 北海道でのムササビ、エゾリス、モモンガなどのためのエコブリッジ

などが紹介されました。

山内社長のCOP10の公式会合での講演でアニマルパスウェイを世界に紹介
山内社長のCOP10の公式会合での講演でアニマルパスウェイを世界に紹介
COP10のブース展示で実物大の模型を展示
COP10のブース展示で実物大の模型を展示

国内では、樹上性の動物のためのこのような取組みはいまだ少なく、アニマルパスウェイ研究会関連のものを含めても20例にも満たないと思われます。道路を利用する皆様のご理解を得て、もっと普及していく必要があると思い、研究会では2012年に新たな一歩を踏み出しました。次号にてご紹介してまいりますので、ご期待ください!

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