マリンワールド海の中道リニューアル

水族館が直面する「2020年問題」

公園のランドマークとしての「うみなか」
公園のランドマークとしての「うみなか」

マリンワールド海の中道(以下「うみなか」)は、1995年にⅡ期が完成し全館オープンしました。白い貝をイメージした特徴的な外観は、いまや公園に無くてはならない風景となっています。
同時期には、大型水族館が全国各地に続々と開館しました。水族館は生物のために休むことなく稼働する機器類と海水のため老朽化や腐食が著しく、竣工後20~30年を経た多くの水族館は「2020年問題」として、現在再生か建替えかを迫られています。須磨水族園や葛西臨海水族園などは建替を選択する一方で「うみなか」は、国営公園初のPFI事業として、地元企業中心のSPCにより、地域に根差した水族館として再生されることになりました。

愛され続ける水族館を目指して

今後も愛され続けるため水族館を目指して、二つの方針を立てました。
一つ目は、開館以来の展示を、常に変化するニーズに応じてリニューアルする「展示の刷新」、もう一つはそれを支えるために「施設・設備の長寿命化と資源の効率化」です。

展示の刷新 「大きな水槽の新設」

まず、対馬海流をテーマとした既存の展示を、「九州の海」へと刷新しました。そのための魅力ある展示空間づくりとして、二つの大きな水槽を新たに作りました。
開館以来の2層分の高さのある円柱水槽を撤去し、3階には激しく打ち寄せる荒波を再現した「玄界灘水槽」、2階にはどこまでも続くような「奄美のオアシス水槽」を作りました。どちらも数十トンクラスの大きな水槽です。

玄界灘水槽
玄界灘水槽

展示の刷新 「生物とのふれあい」

同じ空気の中に居ることで、観覧者は生物の息遣いを間近に感じることができます。イルカのショープールには、客席の前方、水面に近いレベルに、「ふれあいステージ」を新設しました。観覧者の目の前までイルカやアシカが寄ってきて、間近で触れ合うことができるようになりました。
スロープで囲われた場所には、太陽のもとペンギンが自由に動き回る「ペンギンの丘」を整備しました。
こうした展示は、見るだけではなく体感するという行為があり、展示の幅を広げることになりました。

「ふれあいステージ」のアシカと近くの観覧者
「ふれあいステージ」のアシカと近くの観覧者
ペンギンの丘は、観覧者とともにペンギンが歩き回る
ペンギンの丘は、観覧者とともにペンギンが歩き回る

展示の刷新 「回遊の拠点づくり:ホール空間の創出」

多くの水族館は、出入口と観覧通路を一筆書きで結ぶ動線を採用しています。
来館者はゾーン毎に鑑賞可能でわかりやすい一方、人気の水槽前や繁忙期には混雑の原因となり満足度が低下する一因ともなっています。今回のリニューアルでは、ある程度ゾーンの独立性と展示内容の緩急も保ちながら、ホール空間を作り出すことにしました。来館者は自由に回遊することができ、リピーターにとってはお目当ての水槽へまっしぐらということできるようになりました。

滝と緑のセンターガーデン
滝と緑のセンターガーデン
ユニット水槽化によるフレキシビリティ
ユニット水槽化によるフレキシビリティ

展示の刷新 「フレキシビリティ」

旧来の水族館には、構造躯体を兼ねたコンクリート水槽が多用されています。これらを改修するには多大なコストと時間が必要なため、将来の改修も視野に多くの水槽を、工場製作のユニット水槽(鉄とガラスではなくFRPとアクリル)に入れ替えました。
形状も比較的自由に作ることができ、現場での解体作業中に工場製作を行うことで効率的な工事を進めることも可能となりました。

施設・設備の長寿命化と資源の効率化 熱源の最適化

既存の水槽熱源は、館全体を対象とした巨大な熱源でした。今回のリニューアルでは、負荷の大きいラッコ水槽(年間15度)を分離して専用熱源とし、その他負荷の小さい海獣系の熱源も個別化を行うことで省エネ化を図り、電気量は60%程度まで抑えることができました。

施設・設備の長寿命化と資源の効率化 水資源の効率的運用と無動力展示の試み

1400tの外洋大水槽のオーバーフロー(OF)からは、約250t/日の上質で水温も安定した水を排水槽へ流していました。水資源の有効利用の観点から、ペンギンの丘に新設するペンギンプールへ、サイフォン効果による配管にて供給することとしました。これにより無動力の展示が可能となり、ペンギンプールは、水量約250t/日のいわゆる掛け流しとなりました。

熱源の効率化 改修イメージ
熱源の効率化 改修イメージ
水の効率的運用改修イメージ
水の効率的運用改修イメージ

施設・設備の長寿命化と資源の効率化 「建築基準法の既存遡及への対応」

特定天井に該当した外洋大水槽ホールは、多数の来館者が利用するため、既設吊り天井を撤去し直天井化して、安全に水槽を見る場所となりました。

直天井化した外洋大水槽ホール
直天井化した外洋大水槽ホール

公園の中の愛される水族館として

リニューアルオープン1年後、「うみなか」の入館者は以前の1.5倍以上、公園全体としても開園以来2番目の利用者数を記録しました。
九州・福岡の財産としての都市公園施設をリニューアルすることで国営公園の価値と魅力の向上に貢献することができました。これからも同様に地域の人々に愛され、いつまでも白い貝の建築として生き続け、身近な現代建築に対する改修と長寿命化の一例になればとと思います。

受賞歴

2017年 第28 回BELCA 賞ベストリフォーム部門受賞

工事概要

発注者 マリンワールドPFI(株)
所在地 福岡県福岡市東区大字西戸崎18-28
竣工 リニューアル竣工 2017年
延面積 20,968.26m2
改修設計 株式会社日建設計、大成建設株式会社一級建築士事務所、株式会社九電工
改修施工 大成建設株式会社九州支店、株式会社九電工
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