~都市計画公園に指定されていた老舗ブランドのリニューアルプロジェクト~

緑地の創出と歴史文化の継承:ホテルオークラ東京本館建替計画 vol.1

緑地の創出と歴史文化の継承:ホテルオークラ東京本館建替計画 vol.1

「都市開発」

都市開発本部、プロジェクト開発部・筒井直央、開発事業部・佐藤幸一、施設運営事業部・立唐寛之

戦後日本の社交界をリードし、ホテル文化を根付かせたホテルオークラ東京本館。谷口吉郎デザインのロビーは長く人々に親しまれてきた。この建築も時代に合わせて惜しまれつつ建替えられ、2019年に「The Okura Tokyo(オークラ東京)」として再オープンを果たす。しかしこの建替えには特別な条件が必要だった。旧来より都市計画公園に指定されていて、そもそも建替えのできない敷地だったのだ。いかにしてホテルオークラ東京本館は建替えができたのか。ここではその都市開発の物語を2回にわけて掲載する。担当は都市開発本部、プロジェクト開発部・筒井直央、開発事業部・佐藤幸一、施設運営事業部・立唐寛之(当時の所属部署)。

前半は、都市開発における、事業構想、基本計画のプロジェクト。建替可能になったワケと、緑地の誕生をプロジェクト開発部・筒井直央が解説する。

都市計画公園に指定されていた敷地

ホテルオークラ東京本館の創業は1962年。それ以来、半世紀以上にわたり親しまれてきたが、耐震性能向上や、時代に合わせたブランド再構築などの必要性から、今世紀に入って何度か建替えの検討がなされていた。しかしある条件の存在からその実現化は見送られてきた。敷地はかつて、創業家である大倉財閥の大倉家邸宅の敷地であり、1957年に全域が都市計画公園に指定されていたのだ。都市公園法の制限があり、施設の建設はほぼ不可能。しかし本館が竣工したのは1962年。1964年の東京オリンピック開催に後押しされ、一定の条件を前提に当時の特例で実現したものだった。その特例はその後廃止され次の改築、建替えまで有効ではない。このジレンマをどう乗り越えるのか?2000年以降ホテルオークラは本館の建替え計画検討を重ねてきたが、その計画に大成建設都市開発本部も参画。都市開発本部は、計画の可否がまだ見えていない段階から、文字通り「クライアントに寄り添う」プロジェクトに着手した。

「プロジェクトは暗中模索でした。まずは敷地が都市計画公園に指定された経緯を調査しました。しかし戦後まもなくの事情は判明せずに中断。一方で都市計画公園に指定された他の民地の計画例もリサーチしました。先行例の調査です。あるタイミングで該当都市計画公園が、他の敷地へ付け替えられたレアなケースもありました。また、特許事業として一定の用途制限下で再開発が可能になったケースもありました。もちろん公園は都市計画上の必須条件です。特に緑や広場は、現代では都市開発に欠かせない要素であり、そのデザインと機能追求は最先端の技術領域にあります。しかし都市計画は数十年のスパンを要する長期計画。その間もめまぐるしいスピードで経済活動が展開していきます。都市開発とは、このような計画と現状のギャップを調停する、実現化の活動であるとも言えるのです。」(筒井)

都市計画公園に指定されていた敷地 [出典:「東京時層地図」(一財)日本地図センター]
都市計画公園に指定されていた敷地
大倉邸の敷地だった
[出典:「東京時層地図」(一財)日本地図センター]

都市を生まれ変わらせる「公園まちづくり制度」

このタイミングで奇しくも、東京都に新たなまちづくり制度が生まれた。都市計画公園に指定されながら、公園整備が実施されずに凍結されたままの未供用区域があり、市街地の更新が停滞している社会問題を解決する秘策だ。これは2013年に制定された「公園まちづくり制度」。「都市計画公園に指定されていて、敷地の60%以上かつ1.0ha以上を緑地や広場などの公共の場として整備する場合、当初の都市計画公園の指定を解除する」というものだ。つまり、都市公園として土地を供出しなくても、6割を緑地、広場として整備し公開空地とすれば、4割の敷地で建設が可能になるという制度である。供用が進まず停滞する都市計画を推進させ、環境を整備する効果がある。

「ホテルオークラ東京本館の建替計画は、この制度を利用することで新たな活路が見い出されていきます。東京都の制度ですが、区ごとに実施要綱が策定され、条件が少しずつ違います。ホテルが立地する港区では、都市公園整備を重視していたため、緑地、広場として公開空地を整備するだけでなく、当初期待されていた都市計画公園を2,500m2以上供出することで緑地、広場として整備公開する割合を敷地の5割とし、残る5割の敷地で建設が可能になるというものです。今回の建替計画は、この港区の制度と条件でプロジェクトが進められました。」(筒井)

建替を検討していた旧ホテル配置図
建替を検討していた旧ホテル配置図

公開空地をどこに配置するか?――敷地ゾーニング

「公園まちづくり制度をいかに適用するか。まずはその検討をクライアントであるホテルオークラや設計チームとともにはじめました。敷地の40%を事業用地として、都市計画公園は供出しない場合と、敷地の50%を事業用地とするが都市計画公園を2,500m2供出する場合。これらを比較して後者に決定されます。またこれは次回お話ししますが、建替え後はオフィス事業も展開する計画があり、ホテル事業とオフィス事業、その両方の計画に適した床面積や建物高さが確保できるかどうかもこの時検討されました。
次にゾーニングです。まずは供出して土地を譲渡する都市計画公園の位置。建物地下躯体が影響しない等の理由から、敷地南東の江戸見坂沿いの三角形部分に決まります。急傾斜地を含む緑豊かな公園がイメージできました。
次に緑地、広場としての公開空地の配置。公園を除くと全体でL字形の敷地になります。建物構成、公開空地の配置や規模感、配置した空地が地域にとってどのような意味のある場所となるのか、敷地の内外を結ぶ歩行者ネットワークをどのように形成できるのか、周辺の街並みや景観への影響、スカイラインの見え方などを、ホテルオークラや設計チームとともに、まちづくりの視点も交えて検討します。港区や警察との協議調整、隣接する米国大使館の警備への配慮等も踏まえた結果、旧来から敷地南西角に建つ大倉集古館は位置をほぼ変えず、それと北側に対面するヘリテージウイング、東側に対面するプレステージタワーの2棟構成とし、その中心に水盤を配した象徴的な広場を計画しました。かつてU字形の大きな車路のあった北側部分にはまとまった広さを持った芝生の広場を設け、災害時には一時的に人々が避難できる場所とした他、豊かな地形を活かした多様な緑を楽しめる公開空地としました。」(筒井)

事業用地を計画のしやすい矩形にまとめ、基本的には敷地の端部が緑地、広場、公園などの空地に当てられていったが、もうひとつ特徴的な空地のとり方が「歩道状空地」。旧来の歩道が狭いため、空地の一部を歩道の拡幅に充てることで、敷地周囲の歩行空間を安全で豊かなものにしようというものだ。建替え前の2015年までは、ホテルオークラ東京本館へのアプローチといえば、内が見えない長い塀の続く霊南坂をしばらく行った先に、突然入口が開けるものだった。しかしこの建替えを機に敷地は開け、もはや公道と敷地の境界はわからないほど馴染んで一体化したものとなった。

地区計画図
この地区計画図の情報を、右のゾーニング図に加筆する
建替え後の敷地図と、敷地ゾーニング
建替え後の敷地図と、敷地ゾーニング

緑地と広場と公園の計画

都市計画公園「江戸見坂公園」

制度の条件に合わせて供出された2.500m2の都市計画公園。ホテルの主要アプローチとは反対側の三角形の土地がこれに充てられた。南側の平場と北側の傾斜地の、違った性質の土地で構成されている。平場は区画道路に面しており、歩道と広場の間に植栽を囲むベンチが配置され、敷地の緩衝帯となるとともに、歩行者が自然に寄りつきやすい憩いの場となっている。広場にはマンホールが5つ並んでいるが、これは災害時のマンホールトイレ。上部に仮設テントを設置して応急トイレとして使用される。また公園が面している道路・江戸見坂はかつて電柱が並んでいたが、電線の地中化を図って環境を整備している。

江戸見坂公園南側平場
江戸見坂公園南側平場
公道である歩道のすぐ内側に段差のないデッキを張り、ベンチを設置して歩行者の憩いの場を創出した
江戸見坂公園北側傾斜地
江戸見坂公園北側傾斜地
都心とは思えない緑豊かな環境が生まれた
傾斜地奥にはエスカレータを設置し、プレステージタワー3Fオフィスエントランスへのスムースな動線も確保している

オークラスクエア

ホテルの正面広場で、四角い水盤を中心に車寄せとしても使われる空間。ヘリテージウイング、プレステージタワーの主要2棟と、大倉集古館に囲まれた広場。オークラ東京の新しい顔だ。

オークラスクエア
オークラスクエア
左:ヘリテージウイング、中央:プレステージタワー、右:大倉集古館

オークラ庭園

敷地の北端が一般に公開された緑地として整備された庭園。南側のホテル棟に向かって上り傾斜になっているため、北端のアプローチは階段とスロープが多くの面積を占め、その先に広い芝地と石積み擁壁の上の樹木が植栽されている。この庭園の大部分が実は人工地盤である。北端に車路の出入口があり、庭園下の通路を通じて地下駐車場へアプローチする。北側のエントランスから、プレステージタワーに向かって園路が延びている。

オークラ庭園の北側アプローチ
オークラ庭園の北側アプローチ
手前が歩道で、舗装の切り替わりのところから向こうが歩道状空地
オークラ庭園アプローチ
オークラ庭園アプローチ
オークラ庭園北側
オークラ庭園北側
オークラ庭園園路沿いの竹林
オークラ庭園園路沿いの竹林
植栽を切り換えて庭園の表情を豊かにしている

歩道状空地

敷地の北東側歩道と、北西側歩道(霊南坂沿い)を拡張するかたちで、空地が配置された。旧来は外塀の外側に幅員0.5~2.5mの歩道があるだけであったが、塀の取り払いと道路拡幅で歩道を広げるとともに、4~10mの空地を沿わせることで、幅員6.5~13mの歩道ができあがった。街路樹も植栽され、快適な都市の回遊空間が出現した。

霊南坂の歩道と歩道状空地
霊南坂の歩道と歩道状空地
舗装の切り替わりから左、植樹されているエリアが歩道状空地
街を回遊する十分なスペースが確保された
オークラ庭園地下駐車場へ続く車路
オークラ庭園地下駐車場へ続く車路
旧ホテルではU字形の大きな斜路が敷地内に延びていたが、建替え後には庭園の人工地盤の地下へもぐっていく
プロジェクト開発部・筒井直央
プロジェクト開発部・筒井直央

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