オフィス事業への展開:ホテルオークラ東京本館建替計画 vol.2

「都市開発」

戦後日本の社交界をリードし、ホテル文化を根付かせたホテルオークラ東京本館。谷口吉郎デザインのロビーは長く人々に親しまれてきた。この建築も時代に合わせて惜しまれつつ建替えられ、2019年に「The Okura Tokyo(オークラ東京)」として再オープンを果たす。新しいオークラは、ホテル事業にとどまらない。上階でオフィス事業を展開し、ネクストフェイズを迎えているのだ。この新事業がどのように生まれたのか。オフィスの事業企画と運営企画を実現に導いた都市開発本部の仕事を追っていこう。ホテルオークラ東京建替計画における都市開発物語の第2回目。オフィス事業計画・企画を都市開発本部開発事業部・佐藤幸一、オフィス運営を同施設運営事業部・立唐寛之(当時の所属部署)が解説する。

写真:三輪晃久写真研究所
新事業のスキームを企画し開発実施する都市開発本部
The Okura Tokyo(オークラ東京)は、ヘリテージウイングとプレステージタワーの2棟で構成されており、プレステージタワーの8~25階の18フロアは、ホテルではなくオフィスとして開発されている。ホテルオークラにとってオフィス事業は新たなチャレンジ。都市開発本部はこの事業計画、企画を担い、オークラブランドをホテルに限定しない次のフェイズへと導いていった。
まず今回のオフィス事業に特化した特別目的会社(SPC)を立ち上げた。SPCには大成建設の他、日鉄興和不動産、日本政策投資銀行、そしてホテルオークラが参画している。オフィス事業はこのSPCが主体となって進められていくのだが、事業の建て付けはこうだ。まずは当SPCがオフィス床面積相当の土地を、ホテルオークラから購入して共有地とする。ホテルオークラはSPCの土地共有持分を使用貸借した上で、解体工事、新築工事を発注。竣工後、オフィス床の建物部分をSPCがホテルオークラから購入、といった流れ。ただし、オフィス専有部やオフィスロビー等の共用部の企画は設計段階からSPCが参画し進めていった。つまり、オフィス事業主体はホテルオークラ単体ではなく、ホテルオークラも参画したSPCが担っているのだ。SPCへの筆頭出資者である大成建設は日鉄興和不動産と共にオフィス事業の企画と運営をリードしていくこととなった。上記のような事業スキームの構築から開発事業の実施までも、都市開発本部がSPCから受託し、推進している業務だ。「たとえば資金調達では、メガバンクからのシニアローンだけでなく、民間都市開発推進機構からのメザニンローンを活用することで、金融コストの削減を図り、事業の安定性を高める工夫をしています。」(佐藤)




写真:三輪晃久写真研究所

写真:三輪晃久写真研究所

写真:三輪晃久写真研究所

写真:三輪晃久写真研究所


都内随一の緑地を活かした新オフィスのイメージ戦略
The Okura Tokyo(オークラ東京)は第1回目で解説した通り、2.6haの敷地に対し「港区公園まちづくり制度」を活用したことにより、50%を緑地としなければならなかった。従って必然的に緑豊かな敷地になる。
この稀有な条件を活かすオフィスのあり方についても、当初から重要戦略として位置づけている。競合するオフィスに比べれば駅からのアクセスに優位性は無く、幹線道路からも隔離されている一方で、都心のビル群の中では貴重な緑地の中心に新しいオフィスが生まれているのだ。この個性を活かし、緑の多い、落ち着きのある閑静な環境をオフィス企画の中心に据え、他のオフィスとは一線を画す売り方をするということが、最初から目論まれていた。
また、日本を代表する老舗ホテルと一体の建物であることは、他の競合オフィスには不可能な大きな特徴。
5階ホテルロビーは「オークラ・ランターン」を始めとするホテルオークラ東京創業時の「オークラロビー」が世界中のお客様に愛された以前と変わらない印象で再現されている。
オフィスフロアのインテリアデザインにも、オークラの伝統美を取り込むことで、ホテルに寄り添い一体性のあるオフィス空間を生み出している。
「プレステージタワー3階オフィスエントランスロビーのガラス外壁一面に設置したオークラを象徴する文様の1つである菱文(菱文様)スクリーンは、このオフィス棟の印象を決定づけていると言えるでしょう。そのほか、ロビーの六角形(亀甲文)ソファ、エレベータホールの市松文様タイル、トイレ壁面の菱文様など、随所にオークラを象徴するデザインが施されています。このホテルオークラ由来の気品ある落ち着いたインテリアデザインと、敷地に広がる豊かな植生が、他に代えがたいこのオフィスの特徴になっていると思います。」(佐藤)

写真:三輪晃久写真研究所


写真:三輪晃久写真研究所
設計本部と都市開発本部が連携する実効性の高い企画
オフィス企画は建物自体の性能だけでなく、空間デザインとも連動して検討される。テナントニーズを捉えながらワーカーの働き方をシミュレーションし、ワークスペースのあり方を検証した。この結果、オフィスラウンジを新たに設置する企画を生み、特徴のあるエリア構成により様々なコミュニケーション、ランチタイムの利便性、リラクゼーションスペースとしてオフィスワーカーをサポートしている。また建物全体にかかるセキュリティ対策や、災害時のBCP性能の向上など、オフィス環境、機能を追求するためにはホテル事業との綿密な議論を重ね構築していく必要がある。ここで大成建設には、開発事業を進める都市開発本部と、具体的な建築、設備の設計を進める設計本部、材料の調達を進める調達本部、施工を進める支店があり、社内で連携して、一丸となって事業推進を補完し合っているところに大きな特徴がある。企画を遂行するためにどういったハードルがあるか、それはどうしたら乗り越えられるのか、事業者、設計者、施工者の観点から多角的で緻密に検証することで具体的かつ実現力のある企画を構築することが可能になる。これはディベロッパー開発にはできない大きな強みだ。

エントランスのオークラスクエアと大倉集古館が見下ろせる


運営面における都市開発本部の2つの役割
オフィス事業運営と共用エリア(庭園や共用設備等)の運営
オフィスは、赤坂・虎ノ門地区で大規模なオフィスも手掛ける日鉄興和不動産と当社が連携して企画推進し、共同でその運営を行っている。また、共用エリア(ホテル・オフィスの専用エリア以外の庭園や共用設備等)はホテルの所有者であるホテルオークラとオフィスの所有者であるSPCの2者で設立した管理組合が運営を担っており、この管理組合から管理運営業務を当本部へ委託するという方法がとられた。
「当本部の役割は2つ。1つはオフィス運営。8~25階の18フロアにわたるオフィス事業を日鉄興和不動産と共同で運営しています。まずはテナントを誘致するリーシング。テナント決定後、実施される内装工事の監理は全て当部が担い社内の設計本部・施工支店と調整しながら取組みました。そして入居後、テナントの窓口として日鉄興和不動産と共同でオフィスの運営管理を担っています。もう1つの役割は共用エリアの運営です。管理組合では、共用エリアであるオークラ庭園の憩いの空間、屋外通路・廊下などの動線や、施設の安全性・快適性を司る機械室などの施設管理を行います。」(立唐)
今回の建物の特性はホテルとオフィスの異なる用途が一体となった点である。日常(オフィス)・非日常(ホテル)空間が複合して、利用者のコアタイム・曜日も異なる部分がある中で、各用途の特性や利用者からの要望を把握して、全ての利用者が満足を得られるよう迅速に調整するところに運営ノウハウが発揮される。
不測の事態・時代の要請への柔軟な対応
The Okura Tokyo(オークラ東京)は2019年9月にグランドオープン。「オープン後はオフィス単一用途とは異なりブランドホテルならではのお客様へ高いサービスを提供するための取組みだけに留まらず、時には国賓や外国の要人が来られるようなケースもあり、セキュリティやBCPの考え方を学ばせていただきました。しかしオープンから約半年後コロナ禍に見舞われ、早速運営管理の真価が問われることとなりました。建物は常に稼働しており、安全かつ快適な環境を提供し続けなればならないため、濃厚接触者が出たときの対策として、防災センターを2班に分け、利用動線も分けて全ての管理機能が停止することを回避しました。コロナ禍において、ホテルはオフィスよりも受ける影響が大きく、運営を暫定的に縮小せざるを得ず、管理業務に係る支出を抑えて営業したい意向がある一方でオフィスにはその要素は少なく、両者の要望を満たすために、管理内容の見直しとコスト調整を随時行いました。特にエネルギーに関しては支出に占める比率が高く、施設の稼働状況に合わせた電力メニューへの切替えや最適な省エネ運転を実施しました。さらに社会的に環境への意識が高まる中において、オフィスからの強い要望に応えるべく、再生可能エネルギー由来電力を一部導入するなどの細やかな対応も行っています。」(立唐)


今回のホテルオークラ東京建替計画は、緑地の創出と歴史文化の継承を実現した大きなプロジェクトである。大成建設が不動産事業、建設事業、そしてオフィス事業というその上流から下流まで一気通貫でプロジェクトに関与する役割を担った。そのことが、プロジェクトをトータルで俯瞰し、都度発生するさまざまな課題に対して各部署のプロフェッショナルが一体となり、横繋がりで対処にあたり成功に導いた。このプロジェクトで得た成功体験や各部署との一体感を次世代へと繋げていきたい。



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