データセンター特集

環境配慮型データセンターの潮流と技術

環境配慮型データセンターの潮流と技術

バーチャルリアリティを活用したデータセンター熱解析システム

データセンターの熱問題対策の検証方法

データセンターのサーバー等のIT機器が必要とする電力量は、近年のサーバーの高機能化、それに伴う高密度化により、増大しています。またサーバー室内を冷却する為に空調機が消費する電力も増えており、データセンターにおける電力エネルギーの効率化を考える上で、バランスの取れた空調環境の構築が重要なポイントとなっています。

高機能なサーバー群がもたらす発熱への対応策としては、従来のような空調機の台数、風量等の増強に頼るだけではなく「サーバーラックの形状・材質」「フリーアクセスの高さや開口の位置」「データセンターそのものの階高や梁・天井の形状」等、総合的な検討を行い、機能、効率の両面に優れた最適解を考えていくことが望まれます。

第一回「発熱に対する総合的な検討」にてご紹介しましたサーバーからの発熱が引き起こすデータセンターの熱問題、この問題に対してサーバーが設置・稼動した後で対策を施すことは、データセンターがミッションクリティカルなサービスを行うことから考えても、非常に難しく、計画段階での徹底した検証が必要となります。

一般的な検証方法としては、

  • サーバー室内の温度分布や気流状態を解析し、2次元、3次元での可視化によって計画に問題点がないかを検討
  • サーバー室のモックアップを作り、実際の空調機等を用いて検証

といった方法があります

VRの高度化技術を活用した温熱シミュレーション

大成建設では前述した2つの検証方法のメリットを併せ持った、データセンターの熱問題を解決するツールとして、バーチャルリアリティ(以後VRと表記)を活用したデータセンター熱解析システムを使っています。

VRとは、3次元のリアルな空間をコンピュータ内部に構築し、その空間の中に人が没入して映像や音響をリアルタイムで体感できる技術です。
VR技術を更に高度化させた当社保有技術である「Hybridvision」(ハイブリッドビジョン)を用いて建物内部を実寸大で表示し、データセンターのサーバー室内における温熱環境のシミュレーション結果を様々な形で表示可能にしました。

Hybridvision
Hybridvision

この「Hybridvision」では、計画中の建物をCAD図情報等から正確にVR上に構築できるとともに、サーバーや建物・空調機器等の詳細情報を与条件とした、CFD(Computational Fluid Dynamics:数値流体力学)によるサーバー室内温熱環境解析の結果をVR上に融合表示させることで、リアルスケールにて完成後のデータセンターのサーバー室内における気流や温熱の状態を細部まで確認できます。

新たなIT融合型実験ツール
新たなIT融合型実験ツール

実際にVRを活用してデータセンターの温熱シミュレーションをした結果をご説明します。

(画像1)~(画像3)は、標準的なデータセンター内部の気流や温熱の状態のシミュレーション結果をVR上に融合表示したものです。

画像1:VRによるサーバー室の鳥瞰
画像1:VRによるサーバー室の鳥瞰
画像2:グレーチング部からの冷却空気の吹き出し(コールドアイル)
画像2:グレーチング部からの
冷却空気の吹き出し(コールドアイル)
画像3:サーバーからの排熱を吸い込む空調機
画像3:サーバーからの排熱を吸い込む空調機

サーバー室の中央部にサーバーラックが、両サイドに空調機が並んでいます(画像1)。両サイドの空調機下部から吹き出した冷却空気はフリーアクセス床下を通り、床開口部のグレーチング部分よりサーバー室内に吹き出します(画像2、青い模様がその流れを示しています)。この吹き出し部、グレーチングが数多く設置されている通路は、「コールドアイル」と呼ばれています。

コールドアイル両側にあるサーバーラック内のサーバーは吸気口をこの通路に向けており、一定温度以下の空気を吸い込むことが出来るようになっています。そしてコールドアイルの両隣にある通路は、サーバーの排気口が並ぶ為、サーバーの排熱により高温となる個所であり、「ホットアイル」と呼ばれています。

このホットアイルの暖かい空気は、グレーチングからの冷却気流により、サーバー室上部へと運ばれていき、最終的には室両サイドの空調機上部へと吸い込まれます(画像3、赤い模様がサーバーからの排熱の流れを示しています)。

VRを活用した熱解析システムによる合意形成

この冷たい空気と暖かい空気の流れがサーバー室における空気の流れになる訳ですが、この熱解析システムでは、VR上で視点を自由に設定出来る為、サーバー室内の任意のポイントの気流や温熱状態をチェックすることが可能です。本来あってはならない気流が発生していないか(例えば、空調機上部に吸い込まれるべき暖かい空気がコールドアイル側に流れ込んでいないか)、熱だまり・熱の偏在個所が発生していないか、もしあった場合には、それはどのサーバーからの排熱が影響しているのだろうか、といった問題点の発見からその原因の究明まで行うことが出来ます。

サーバー室内の温度分布
サーバー室内の温度分布
気流の勢力範囲
気流の勢力範囲

あわせて、これまでに数多くのデータセンターの設計・施工を手掛けてきた経験豊富な大成建設スタッフが建築、設備両面から問題解決に向けた検討を行い、データセンターにおける熱問題に対する最適解を考えていきます。

CFD解析とフィードバック解析~高度な解析と効率的な対策立案~
CFD解析とフィードバック解析~高度な解析と効率的な対策立案~

リアルスケールなVRによってお客様と最適解の検討を進めることは、熱問題の解決のみならず、データセンターの建設計画全般において、お客様との合意形成に役立つものと考えます。

VRによる合意形成イメージ
VRによる合意形成イメージ

環境配慮・省エネルギー技術

現在、環境配慮、エコ対応、省エネルギーへの取組みは、大企業から中小企業、一般家庭に至るまで急速に広がっています。
“東京都内でCO2の排出量が多いのはここだ!ランキング”(2008.7 週刊東洋経済)によると、2005年度の調査では、業務部門の上位150事業所内に約20のデータセンターがランクインしていました。
近年、データセンターの電気使用量は急増しており、今後はさらに多くのデータセンターが上位に名を連ねるものと思われます。

当然ながら、データセンターに対してもCO2削減への積極的な取組みが求められており、国内外の関連する企業や団体が活動を行っています。
当社も建設会社として、データセンターの設計・施工において、環境配慮・省エネルギー技術の開発と導入を進めています。
本特集の第3回では「バーチャルリアリティを活用したデータセンター熱解析システム」をご紹介しましたが、この技術も空調エネルギーの削減を実現できる技術の一つです。

さて、建築・設備に関連した環境配慮・省エネルギー技術は、数多くあります。下記の表は、CASBEE(財団法人建築環境・省エネルギー機構によって開発された建物の環境性能評価手法)に記載されている建築物の省エネルギー技術の一覧になりますが、建物用途を限定していません。

建築物の省エネルギー技術の一覧(CASBEE-新築)  BEMS:建物のエネルギー管理システム(Building Energy Management System)
建築物の省エネルギー技術の一覧(CASBEE-新築) BEMS:建物のエネルギー管理システム(Building Energy Management System)

今回は、その中からデータセンターへの適用が考えられる技術を幾つかご紹介致します。

フリークーリング

外気温度が低い中間期から冬期に、冷凍機を使わずクーリングタワーと熱交換器によって冷水を作り出す技術。冷凍機の停止によるエネルギー削減が図れる。

フリークーリングの概念図
フリークーリングの概念図

外気冷房

冷たい外気を直接室内に取り入れて冷房効果を得るシステム。空調負荷の低減によるエネルギー削減につながる。

外気冷房システムを導入したサーバー室
外気冷房システムを導入したサーバー室

太陽採光システム:T-Soleil

自動追尾ミラーで太陽光を長時間室内に導入するシステム。複数の反射ミラーを使用して、室内の広範囲へ拡散させることもできる。照明電力用エネルギーの削減を図る。

太陽採光システム:T-Soleil
太陽採光システム:T-Soleil

コンパクトダブルスキン:T-Façade Air

二重のサッシ内にブラインドを組込み、換気開口を設けた窓システム。冷房期は換気開口を開放して、ブラインドが吸収した日射を屋外に除去する。冬期は換気開口を閉鎖して、断熱性を高める。

コンパクトダブルスキン:T-Façade Air 外観
コンパクトダブルスキン:T-Façade Air 外観
コンパクトダブルスキン:T-Façade Air 換気スリット
コンパクトダブルスキン:T-Façade Air 換気スリット

また、リサイクルと輸送エネルギーの削減という両面から、次のような製品を活用することも可能です。

段ボールダクト

段ボールにアルミコーティングを施した空調用ダクト。鋼板製と比べて軽量で、折り畳むことができるので輸送にかかるエネルギーを削減できる。紙とアルミニウムに分離して再利用が可能。

段ボールダクト(グリーンマーク表示製品)
段ボールダクト(グリーンマーク表示製品)
段ボールダクト断面図

今回ご紹介したもの以外にも、データセンターに適用可能な技術は多数あります。
大成建設では、可能性のある技術を抽出しその効果を検証した上で、データセンターへの最適化を図るという姿勢が必要と考えています。
2008年6月24、25日に開催されたデータセンターの展示会「Next Generation Data Center 2008/Green IT WORLD」では、これらを含めた様々な技術をソリューション集としてご紹介しています。

環境配慮型データセンターのソリューション集
環境配慮型データセンターのソリューション集

データセンターに関しては、現在、地球温暖化防止の決め手となる技術やソリューションは残念ながらありません。このような状況のなかでは、少しでも温暖化防止に貢献できるソリューションであれば積極的に採り入れ、細かな積み重ねによって環境配慮型データセンターへと組み上げて行くというのが、最良のアプローチであると言えます。

さて、4回シリーズで解説してきました特集「環境配慮型の潮流と技術」はいかがでしたか。データセンターを取り巻く状況は日々刻々と変化していますが、その中でも“環境配慮”は非常に大きな流れであり、正面から取り組みべき重要なテーマであると考えています。これからも大成建設では、最新動向をフォローし、新技術の開発とノウハウの蓄積を行い、より地球環境に優しいデータセンターづくりを目指していく所存です。

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