データセンター特集

環境配慮型データセンターの潮流と技術

環境配慮型データセンターの潮流と技術

発熱に対する総合的な検討

データセンターとは、大量のコンピュータ・サーバーを収容するために設計された専用の建物です。
コンピュータを安定して連続稼働させるために、停電時に備え複数の大型発電機やバッテリーを備えたり、雷による異常電圧への対策、セキュリティの確保、建物の免震化を施すなど、様々な機能を建物に持たせる必要があります。

近年、特に首都圏においてデータセンターの需要が急増していますが、データセンターは技術的に高度な施設であり、要求条件に合ったセンターが十分に供給されていないのが実情です。

大成建設のバーチャルリアリティ技術

このデータセンターに収容されるコンピュータも、最近では高機能なブレードサーバーと呼ばれるものが増え、小型化に伴う集積度の向上により、高機能データセンターの使用電力量は、一般オフィスの10倍以上となっています。

一方、コンピュータを冷やす空調の能力も高いものが要求され、空調機が消費する電力も増え続けています。

従来は、必要電気量の増大⇒発熱量の増大⇒空調設備の増強という流れがありましたが、今では単なる設備の増強だけでは対応できないほど、発熱の量は増え問題は深刻化しています。

さらに、データセンターの地球環境に及ぼす悪影響がクローズアップされ、経済産業省の「グリーンITプロジェクト」や米国「Green Grid(グリーングリッド)」コンソーシアムなど、その影響を最小限に抑えようとする動きが活発化しています。

ラック当たりの発熱量の変化
ラック当たりの発熱量の変化

このような背景から、大成建設では、データセンターの発熱問題の解決には、単なる「空調設備の増強」にとどまらず、機能性、効率性の双方が両立することを念頭に、「ラック、フリーアクセス、建物躯体までをも含めた総合的な検討」が必要と考えています。

発熱に対する総合的な検討
発熱に対する総合的な検討

データセンターのサーバー室は、排熱処理の点から十分な階高を持った空間が必要となります。階高は、フリーアクセスの高さ、天井高、天井の深さ、スラブ厚に割り振られます。

(階高)=(フリーアクセスの高さ)+(天井高)+(天井の深さ)+(スラブ厚)

サーバー室の空間は大きい方が排熱処理上は有利
サーバー室の空間は大きい方が排熱処理上は有利

最近のデータセンターでは、発熱量の増大に伴って大量の冷却風を送り込む必要から、従来の倍以上のフリーアクセス高が求められます。また、サーバーからの排熱が天井に跳ね返りラック前面に回り込まないよう十分な天井高を確保する必要もあります。このようにデータセンターのサーバー室には、階高が要求され、近年その値は大きくなる傾向にあります。

しかし、都市部においては、日影規制、道路斜線、高度制限など、建物の高さを抑制する要因が多く、思うように階高を確保できないケースがほとんどです。
一般に土地の有効利用という観点から、容積率いっぱいの床面積持った建物を建設しますが、建物の高さが抑えられてしまうと自ずと階高も低くなりデータセンターの要求水準を満足することが出来なくなります。建物の総床面積と階高のトレードオフの関係により、階高が犠牲になるケースが多く、都市部においては、データセンターにとって理想的な階高を確保することが難しいのが実情です。

高さ制限が厳しい都市部では十分な階高がとれない
高さ制限が厳しい都市部では十分な階高がとれない

このような環境下においてデータセンターを構築する際の一つのソリューションとして、天井を張らない直天井方式を採用するという選択肢があります。
サーバー室では、サーバーからの排熱が跳ね返らないようラック上部の空間を確保することが重要ですが、この空間は何らかの原因により空調機が停止した際の熱溜まりとしてのもう一つの重要な役割を担っています。ラック上部に露出する梁が空気の流れを妨げないよう配慮する必要がありますが、直天井とすることで、この2つの重要な機能を維持することができます。
デザインよりも機能性や効率性を重視するデータセンターにおいては、有効な方法です。

熱溜まりを確保するために直天井とする
熱溜まりを確保するために直天井とする

このように排熱処理に関しては、空間的観点から総合的な判断が必要となります。

PUEの低減とDCiEの向上

大量の電力を消費するデータセンターにおいて、建物・設備としてのエネルギー効率を表すPUE(Power Usage Effectiveness)とDCiE(Data Center infrastructure Efficiency)という指標があります。

この2つの指標は、データセンターの省電力化を目指す米国のNPO「The Green Grid」が提唱するもので、次の式で表されます。

PUEとDCiE
PUEとDCiE

PUEとDCiEは、逆数の関係です。(以下、PUEを使って話しを進めます。)

PUEの値は1.0、つまり、データセンター全体の消費電力がすべてIT機器の消費電力となることが理想です。
しかし実際のデータセンターでは、冷却のための空調電力、UPSやPDUにおける変換ロスなど、IT機器以外が消費する電力が大きくなっています。

下の円グラフは、3ヶ所のデータセンターにおける電力消費の内訳を表しています。データセンターA、B、CのPUEは、それぞれ3.3、2.0、1.9となり、エネルギー効率としては、PUEの値が最も低いデータセンターCが優れていることになります。

データセンターのエネルギー消費モデル
データセンターのエネルギー消費モデル

それでは、PUEの値が幾らであれば、効率の良いデータセンターと言えるのでしょうか?

The Green Gridのホワイトペーパーには、

  • 多くのデータセンタのPUEは3.0以上ですが、適切な設計をすると1.6のPUEの値が達成可能です
  • 他の調査では2.0のPUEの値が適切な設計で達成できたと示しています

という記述があります。

今後、建設されるデータセンターの中には、環境配慮型としてPUE=1.6を目指すセンターもあれば、PUE=1.4が実現可能であるという事業者もあります。

今後のデータセンターの計画においては、コストと効果のバランスを見ながら、『PUEが2.0を下回る』ことを一つの目標とすることが妥当と考えられます。

では、PUEの低減を図るには、どの様な方策が必要でしょうか?

データセンターの電力消費の内訳を見ると、IT機器以外では、冷却のための空調エネルギーの消費量が大きいことがわかります。つまり、この空調エネルギーを削減することがPUE低減のポイントとなります。
具体的には、

  • オーバースペックとならない空調設計
  • 高効率な空調システムの導入
  • 最適な大きさ・形状を持つ建築空間の提供
  • 建物の熱負荷の抑制

などが挙げられます。

さらにデータセンターの設備として重要な機能は、IT機器が消費するエネルギーの変動に追従できる空調設備や電気設備の柔軟性です。

通常、IT機器の消費エネルギーが小さくなれば、データセンター全体の消費電力も小さくなります。しかし、空調設備を細かくコントロールできず、空調エネルギーが従来と変わらなければ、トータルとしての消費電力が減ったとしても、結果的にPUEの値は上がってしまいます。

データセンター建築・設備の柔軟性
データセンター建築・設備の柔軟性

このようなことが起こらないよう、例えば、ラックの電流値と温度分布をリアルタイムでモニタリングしながら、きめ細かな空調制御が行えるシステムを組み込むことで柔軟性が確保されます。

下の図のような、データセンターの室内環境のモニタリングと最適制御は、PUE低減を実現する上で必要不可欠な機能と言えます。

室内環境のモニタリング/最適制御
室内環境のモニタリング/最適制御

PUEという指標は、これまで曖昧だったデータセンターの建築・設備の効率性に着目し、それを数値化することで、電力消費の内訳が明らかになり、建築・設備のエネルギー性能が客観的に評価できるようになった点で大きな意味があります。

最近では、データセンターの環境性能が優れていることをアピールするために、PUEの数値を前面に掲げる事業者も出て来ています。

現在、The Green Gridでは、全世界のデータセンターのPUEを調査・収集・分析しており、その結果に注目が集まっています。

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