ザ・シンフォニーホール(後半)

日本初のクラシック専用コンサートホール。
“残響2秒”の世界を守り続けています。

ザ・シンフォニーホール(後半)

ザ・シンフォニーホール(後半)

唐突ですが、“残響”という言葉をご存知ですか?
聞き慣れない方も多いと思いますが、ザ・シンフォニーホールはこの“残響”に徹底してこだわり、日本初のクラシック音楽専用のコンサートホールとして、1982年に誕生しました。これも、大成建設の仕事です。

今回はその誕生に至るまでの舞台裏と、ホールの代名詞でもある“残響2秒”の世界について、朝日放送株式会社事業部 千代隆様のインタビューを交えてご紹介します。

朝日放送株式会社事業部 千代 隆 様
朝日放送株式会社事業部 千代 隆 様
ロゴマーク(写真はオリジナルステッカー)
ロゴマーク (写真はオリジナルステッカー)

日本に無いものを創る

現在、日本には様々なコンサートホールがあり、音楽が身近な存在になるにつれてクラシックファンも増えてきました。
コンサートホールの草分け的存在であるザ・シンフォニーホールは、朝日放送株式会社様の創立30周年記念事業として誕生し、「最上の響きでクラシック音楽を聴く」ことができるよう徹底追求されました。

千代様:
プロジェクトの根底には、原清社長(当時)の強い思いでもある、「大阪、ひいては日本の文化レベルの向上に貢献しよう」という社会還元の姿勢がありました。
原社長は当時、ザ・シンフォニーホールの建設を機に日本に質の高い音楽専用ホールが増えることを望んでおりました。

“クラシック専用”を実現するためには

当時の日本では専用ホールという認識はまだ薄く、用途の柔軟性をもつ多目的ホールばかりが建設されていました。
クラシックコンサートホールの“最も良い響き”となる値は“残響時間2秒”とされていますが、この値は講演会などには不向きなため、それまでの多目的ホールで「最上の響きでクラシック音楽を聴く」ことは不可能でした。初の“残響2秒”のホール実現に向け、大成建設の奮闘が始まります。

“残響”とは?

大まかに言うと、屋内で音を止めた後にも響いている音のことを意味し、この響きの大きさや長さ、響いてくる方向などが融合して、屋内に様々な音の余韻を作り出します。
残響は人の音の聞こえ方・感じ方を左右するため、ホールの用途と容積に合わせて正確に計算して作り出さなければならず、音響技術者にとって重要なミッションの1つです。

千代様:
残響は、ホール内の様々な材質によっても変化してしまいます。例えば椅子の張り地など。数年前にすべての座席を張り替えた時は、ホール内を再測定して、どの箇所でも残響2秒になっていることを確認しました。寸分の狂いが命取りになるほど音の世界はデリケートなのです。

1/10縮尺モデルの模型実験

そこで大成建設技術センター内に、ホールを1/10に縮小した模型をつくり(室内奥行き約4m×幅約3m×高さ約2m)、予測計算では把握できない音響性能まで確認できるようにしました。1702席(現在1704席)すべてに、人間の吸音率と同じ人間型の発泡材を作って座らせ、客席やステージ上の多くの箇所で音響データを測定。それを現物の大きさに置き換え、残響が所定の値(満席時500Hzで約2秒)になるよう、また、エコーによる音響障害の防止などについてトライ&エラーを繰り返しました。1年以上に及ぶ実験には技術者の魂を感じます。

得られたデータを参考に音響拡散体や音響反射型照明灯など様々に工夫を凝らし、理想とする音響数値の確保に成功しました。

1/10縮尺モデルの模型(総数1702席!)
1/10縮尺モデルの模型(総数1702席!)

実験の結果、工夫されました

  • 音響拡散体(音の拡散用)

    鳥をイメージした形の40枚のパネル。意匠上の効果を主目的としているが、音響的な拡散性能の確保も考慮した。

  • 音響反射型照明器具(音の反射用)

    1枚ずつ、位置・角度・大きさを計算して設置。合計26枚。

  • 吸音、拡散のために壁面につくられた凸凹。装飾としての効果も発揮。

音響技術があまり浸透していない27年前に、模型をつくり、エレクトロニクスとコンピューターを融合した技術を駆使して残響2秒の世界を可能にした技術力は、その後の日本のホール建築に大きな影響を与え、現代の音響技術の礎となっています。

千代様:
ザ・シンフォニーホールは「ホール全体が楽器」と表現されるほど、その音の響きに対して、多くの方から称賛の声をいただいております。まるで音が全身に降り注いでくるような感覚は、計算し尽された「残響2秒」のホールだからこそ体感できるものです。

名指揮者であるヘルベルト・フォン・カラヤン氏はその音の響きに感激し、「この様なホールを日本に造ってくれてありがとう。」と言葉を残したほどです。
今でも、「残響2秒」のこのホールを実現した方々の熱意と職人魂を感じます。

第13回BELCA賞ロングライフ部門 受賞

ザ・シンフォニーホールは、音響性能の維持を最優先課題として着実に設備改修が行われてきている点が高く評価され、第13回BELCA賞ロングライフ部門を受賞しました。
関係者たちの不変な努力と情熱が、最上の“響き”を守り続けています。

千代様:
国内外の多くの方々に愛されているザ・シンフォニーホールの音をいつまでも守るために、大成建設さんと二人三脚でできることから取り組んでおります。当初と変わらない音を維持するという共通の目標のもとに、見えない相互の心の繋がりを感じています。
ぜひ、皆様にも大阪へいらっしゃる際にはザ・シンフォニーホールにお立ち寄りいただき、その27年間変わらない“包み込む音の響き”を、体感していただきたいですね。

BELCA賞の賞牌
BELCA賞の賞牌

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